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婚約者

「エマ、どういう事か説明してくれ」


「あの者の力が相当に強力で、例えるならまるで磁場の影響でも受けているかのようなのです」


「では、どうすれば良いのだ」


「やはり転移者ではないかと思いますの」


「あの男が?」


「というより……」


「このままでは非常に危険です。 事態がますます悪化する恐れが」


「駄目だ、これ以上もう放っておく事などできるはずがない!」


「私、いったん戻りますわ」


「エマ、君にいて貰わねば困る」


「大丈夫ですわ、ネヴィル様を一人になんて致しません」


「何か、策はあるのか?」


「まだわかりませんの。 ただ、あの者と私が敵対関係にある事だけは確か。 そこから辿れば」


「何日くらいで戻るのだ?」


「時間の感覚が違いますのよ、せいぜい二日かと」


「なるべく早く頼む。 もう我慢ならない」


「あら、ネヴィル様はそんなに女々しい方でしたかしら?」


「茶化すな、エマ。 わかっているはずだ、俺は愛する者を守りたい」


「それは私も同じです。 だからこそ、私は貴方に会いに来たのですから」



 ☆ ☆ ☆

 ☆ ☆ ☆



 普段と何も変わらない平穏すぎる日々が、こんなにも不安で落ち着かないなんて思いもしなかった。


 夢が単なる夢なのか、それとも正夢なのか、それを考えると眠れない。

 もしかしたらネヴィル様の心変わりが影響して、そんな悪夢ともいえる心境になってしまったのだろうか。


 はっきり心変わりしたとネヴィル様に告げられたわけでも婚約破棄されたわけでもない。

 ただの一時的な気の迷いという事もある。


 それでもネヴィル様を前にすると、身体が本能的に恐怖を感じ取るのだ。怖い、怖い、と。


 だからネヴィル様が側にいると言った、本来なら嬉しい言葉も素直に受け取る事ができなかった。


 いったい、私はどうしてしまったのだろうか。


「フロタリア様……」


「ねぇ、ジャクリン。 教えてくれないかしら」


 そこは中庭。 向かい合う昼下がり、言い淀むジャクリンにさらに詰め寄る。


「ですが、まるで告げ口のようで……」


「だって、しばらく同部屋にいたのでしょう? そこでの、貴方の知っている事を教えてくれるだけでいいのよ」


「聞いてどうなさるのですか?」


「どうもしないわ。 知りたいだけなのよ」


「エマ様はとても優秀で、所作も礼儀作法も非の打ち所のない方です」


「確か、婚約者がいらっしゃるのよね?」


「次期公爵になられる方で、現在は王宮内にいらっしゃるのだとか」


「そんな立派な婚約者がいらっしゃるのに、どうして?」


「さぁ……。 私から見たら、立場関係無しに欲しい物は手に入れたいと思いますが」


「ジャクリンでも、そう思う事があるの?」


「私は貴族ではありませんもの」


 エマ様が意地悪く、他人を蔑むような人間だったなら、どんなに救われただろうかと考える。

 もしも他人の婚約者を平気で奪える魔性の女だったなら、どんなに憎めただろうかとため息がこぼれる。

 だが、エマ様は美貌に恵まれて、素晴らしい人柄の持ち主だ。 ネヴィル様が惹かれるのは私でもわかる気がする。

 そしてどういうわけかエマ様には、懐かしさと涙があふれるような心の震えを感じてしまう。


 他の殿方や令嬢からはエマ様やネヴィル様をどんな風に見ているのか、それはよくある暇潰しの一つに変わりなく。 私に対してはどこか同情か哀れみのような雰囲気だ。


 だからラウンジだったか、学舎だったか、誰かの噂話で聞こえて来た時もそうだった。


 ネヴィル様がエマ様に愛を告げた、と。

 互いの婚約を自ら破棄に持ち込むのは時間の問題だろう、と。

 この数日、エマ様が学校にいないのは実家の侯爵家に婚約破棄の願いをしに帰ったのだろうという事だった。


 だとしたら、ネヴィル様が婚約破棄の為に帰るのも近いのかもしれない。

 そう思ったら、この穏やかな一日一日が酷く重苦しく思えて来るのだ。


「フロタリア様、ネヴィル様がいらっしゃいましたよ」


 ジャクリンに言われて中庭の端に目を向けると、ネヴィル様が連れを伴って歩いて来る姿が見える。


 私はこの場から逃げ出したい衝動を必死に抑える為に、掌に爪を強く押し当てた。


評価、ブクマ等お待ちしています。


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