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残酷な扉

「フロタリア様、また今日も図書室に行かれるのですか?」


「読みたいのがあるのよ」


「ですが、あまり頻繁では妙な噂が立たないとも限りません」


 その日の学びを終えた私は直ぐ様、その場を後にして図書室に向かう。


 ジャクリンが心配するのは当然で、ここ最近の私は以前にも増して足を運ぶ機会が多くなった。

 というのも、デュークに薦められた小説がとてもおもしろくて夜遅くまで読んでしまったからだ。


 今までなら小説のような空想物は読もうとはせず、どちらかと言えば歴史や偉人伝といった過去の出来事を扱った書物の方が多かった。

 それはネヴィル様の多少の影響も関わっているが、私自身が読みたい部類ではあったから。


 ところが、学校に在籍している他の令嬢の方々は恋愛小説をよく好むらしく、ラウンジでもその話題が上る事が時々あった。


 他の令嬢の方々の話題についていけなかったところに、デュークの薦める小説の登場だ。

 読み漁りたくならないわけがない。

 それは冒険物だったり、家族物だったり。 時には恋愛物や推理物も。


 今読んでいるのは冒険物の上巻。

 おもしろくて一気に読み進めたせいで、早く続きが知りたくて仕方ない。


「本を借りに行くだけよ」


「そこにデューク様もいらっしゃるのでしょう? あまり親しくしては……」


「彼はお友達よ。 それに二人きりで会うわけではないのだもの」


「それはそうですが……」


 それに小説に夢中になっていれば、ネヴィル様とあの御令嬢との事を考えなくてすむ。

 嫌な想像を頭の隙間に置きたくない。


 入学後、ほとんどネヴィル様と会話らしい会話ができていないのだ。

 顔を合わせても、いつもネヴィル様の視線は他の御令嬢へ向いている。


 だからと言って、婚約者の立場に変わりはない。 ただ、とにかく寂しかった。


 もしかしたら私は、その寂しさを埋めようとしているのかもしれない。

 読みたい小説があるから、という理由付けで。



 ☆ ☆ ☆



 この学校には貴賓室がある。

 所謂、上位貴族と呼ばれる地位にある人間だけに許される休憩室のようなもの。


 ジャクリンやコゼットのような立場なら、使用人代わりの世話係としての立ち入りを許可されるが、私のような下位貴族はその立ち入りすら許されない。


 あるとしたら招かれた時のみ。

 だから誰もが上位貴族にすり寄り、媚びへつらって恩恵にと考えるのだろう。


 寮の部屋で小説を読んでいると、ジャクリンがどこからか帰って来た。


「フロタリア様、上級生の殿方より伝言がございます」


「上級生?」


 私達令嬢の寮はもちろんとして、学舎も殿方とは中庭を隔てた少し離れた場所にあるので、休憩時間でのラウンジや食堂以外では顔を合わす事が多くはない。


 最近では図書室や広間も男女共に利用する人が増えて来たので、私やデュークのように意外と顔見知りになるケースもあるのだが。


 それ以外で男女の、例えば婚約者同士が親密に利用する場所として存在するのが貴賓室だ。


 ここはある意味、密室でもあるので友好を深めたい者や知られたくない者同士の格好の場でもある。


「ネヴィル様のお仲間だそうです」


「では、ネヴィル様からの伝言なの?」


「えぇ、ネヴィル様が貴賓室で待っておいでなので」


「どうしてそれを貴方が?」


「あら、お気づきのはずではなかったのですか?」


「エマ、様ね……?」


 ジャクリンが含みのある顔で私を見る。

 ネヴィル様は上位貴族だ。 そしてエマ様も。


「ネヴィル様お一人で、待っておいでなの?」


「失礼だと思いませんか? 婚約者のネヴィル様が他の令嬢を伴って、フロタリア様をお招きなさるなんて」


「まさか、そんな……」


「どうなさいますか? 私は今から所用で先生に呼ばれていて、一緒には行けないのですが」


「いいわ、ネヴィル様が呼んでいるのなら私一人で行ってみる」


「心配ですわ、フロタリア様お一人で行かせるのは」


「大丈夫。 私は平気よ」


 自分を奮い立たせるように握り拳を作って言ってみた。

 そうでもしなければ、きっと弱音が口からこぼれてしまいそうになる。



 ☆ ☆ ☆



 どうして?


 身体中が痛い。

 私の心が奪われる。

 こぼれるのは私の涙なのか、汗なのか。


 また意識が遠くなっていく。

 どこからか聞いた事のある声がする。


 しっかりと目を見開いていなくては、そう思いながら人物を確かめると……。

 ネヴィル様の噂話をしていた上級生の殿方達。


 その奥のソファーに座っているのは、よく知る顔の男女。


「そんな……」


 二人は楽しそうに囁き合っている。


「貴方、ずっと気に食わなかったのよね」


 女が男の肩に凭れながら言う。


 私はこんな風に憎まれていたの?


 傷つくのがわかっているからこそ笑う、その楽しそうな顔。

評価、ブクマ等お待ちしています。

よろしくお願いします。

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