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第7話 国立美術館と壁画




翌日、ビアンカは、父に連れられて、馬車で移動していた。朝、目覚めたビアンカは、バルコニーに出て昨日のことを思い返した。楽しいこと怖いこと、沢山ありすぎて、寝てる間に脳が整理しきれなかったのか、何だか疲労感が残りスッキリしない。


帰宅後は、家族にもメイドにも心配された。無事に帰ってこられたのだし、酷い身なりについては、余計な心配は掛けまいと、避難の際に転倒したと伝えた。運悪く何処かに引っかけてしまって破れてしまったのだと。


水竜が街に出たと話すと、父は王宮に事態を確認すると言って、出かけて行った。汚れを落とし一息ついたところで、メイド経由で伝えられたのは、翌朝、伴に出かけることになったということ。慌ただしかったが目的の友人との外出も終わったことだし、棚に上げていた家宝を壊したことの後始末についてだろうと、疲れが残る身体に鞭打って、こうして父と共に何処かに向かっている。


「あの、お父様、どこに向かうかのでしょうか?」

「国立美術館に向かっている」


なぜ、美術館なのだろうかと思ったが、古い仮面だ。美術館は絵画や美術品の修復などを専門とする者がいる。そうした専門家に、修復を依頼するのだろう。昨晩、水竜の話を聞いてから、気難しい顔をしている父親に、話しかける話題が見つけられず「そうですか」とだけ返し、流れる街の風景を眺めていた。




たどり着いた国立美術館は、何度か訪れている場所だが、先導する父親に案内される通路は通ったことがない。奥まったところにある扉を抜け、歩くと地下へ続く階段があった。一般には展示していない貴重な品が納められているのだろうか。


暫く下っていくと、鍵の掛かった扉があり、父の持つ鍵で開かれた扉の向こうには、想像したものより高く広い空間が広がっていた。


「ここは…」


部屋で一番目を引くのは、壁面の大きな壁画だ。正面の壁一面が一つの大きな壁画となっており、部屋に入ったビアンカを迎え入れていた。


「ここの壁画は、数百年以上前から存在している」

「数百年ですか?」


圧巻の一言だった。数百年と聞くが仕掛けが施されているのか、劣化している様子はない。何かの物語が描かれているようだ。ふらりと壁を眺めてゆっくりと部屋の中を進む。




暗闇と炎、争う人々と黒い何か

暗澹とした戦場に降り立った光

白い光を纏う女性と黒い何かの攻防

人々に囲まれる女性

喚起する群衆を遍く光が照らす

芽吹く緑、癒された世界




眺めながら光景を脳内で言語化していくと、それは、まるで昨日も舞台の唄から連想した馴染みのある話のようだった。


「お父様、これって、唄にある古の戦い?」

「そうだ、『悪しき魔』を倒し、それを祝い、豊穣を祈るのがこの国のカーニバルの始まりだ。その黒い獣のようなものがあるだろう」


黒い何かを指して、父が語る。これが、滅んだという『悪しき魔』だろうか。史実を後世に伝える際に、今のような形になったのだろうが、この黒いものは、当時の敵国の王や語り継がれる敵国で英雄視されるような武将だろうか。


「それが、『悪しき魔』だ。邪気をはらみ、世界に穢れをばらまく存在。魔王、悪魔、お伽噺として語り継がれる場合、そうした表現となっているが、未だ滅びぬこの世界の穢れだ」

「魔王…?」


冗談など口にすることがない父が本題の前に和ませようと言っているのであれば、笑うところだろうか、とビアンカは壁画から目を父親に目を向けるが、その目は至極真面目に壁を見つめている。


「その何かの存在は、封じられ長い年月をかけて役目を担った者たちによって、隠されてきた。カーニバルは、その存在を隠しつつ、魔を封じるための守りの維持と封印された魔を長い時をかけて完全に葬り去る役目を語り継ぐために始まり、そして、今も続いている」

「え…、唄では、怨嗟は鎮められ、世界に平和は戻ったと。それに…」


作り話でしょ?


数百年の歴史をこの国は紡ぎ、今だって人々は平和に暮らしているではないか。それに街の外にでれば、魔獣、昨日のような凶暴な人に飼いならされていない竜はいる。ただ、それを統べる王だなんて、存在しているのはお伽噺の中だけだ。




「その昔の戦禍で、『悪しき魔』を封印した強い力を持ったという聖女は亡くなった。戦後の復興の時期に人々の不安を煽らぬように、当時の王家は、その存在を秘匿し、聖女の封印を密かに守ることを選んだのだ。だが、聖女を失った上に、世界の恨み、妬み、争い、そうした負の力がある限り、完全に力を滅することはできなかったと聞く」

「…」

「ビアンカは、魔物や魔獣を一掃するような力を持つ聖女や勇者がいると思うか?」


それは信仰心をお金に換えたがる組織や物語を楽しませるために作られた存在だろう。この世界に、そのような存在がいるだなんて、聞いたことがない。


「そのような方、いらっしゃらないでしょう?」

「そうだな。そんな存在は、いなかったのだ」

「そ、そうですよね」

「聖女が施した封印を守り、封じられた魔の力を削ぎ、浄化するための儀式。それが、我が家の負ってきた役目だ。聖女の血筋が代々その役割を担ってきた」


ビアンカは生まれて此の方、そのような存在をお伽噺以外で、耳にしたことはない。ビアンカは、父の考えを推察する。もしかして、今の自分は、お伽噺で躾けられる子供と同じではないか。「悪いことすると魔王がやってくるぞ!」と反省を促したいために、こんな話をしているのだろう。聖女と魔王の存在を話すことで、家宝を壊してしまった自分に対して、罪悪感を植え付け、反省を促したいのだ。


もしかしたら、母親の入れえ知恵かもしれない。

そう結論付けてビアンカは、求められてる答えを口にする。



「お父様、申し訳ありませんでした。大切な家宝を壊してしまい。何ができるかわかりませんが、わたくしに出来ることなら何でもいたします。その…手先は器用な方ですし、責任を持って仮面の修復もお手伝いします。貴族として、果樹園の娘として、蒔いた種、自分で刈り取らせていただきますわ。お母様ともお約束しましたもの」


先ほどより柔らかな表情で見つめる父親を見て、自分の回答が間違っていないことをビアンカは確信した。謂れがある大事な儀式、その為の道具を大事に扱わせるために、このような場所に来てまで父親は話をしたのだろう。これで、この話も終わり…


「力を持ったばかりに、お前には苦労をさせるが、分かってくれたか」

「えっ…、ち、ちから?」


謝罪を口にして終わるはずの話は、ビアンカの想像から逸れながら続いていく。


「何代も前に起こった力を巡った諍いの結果、血筋が薄れて引き継がれる力は微弱となり、仮面自体の劣化も問題視されてきていた。国で根本原因を取り除くための研究も進められてはいるが、お前には役目を務めてもらう他なかったのだ」

「国…、研究ですか?」

「封印の中の魔の浄化や結界維持に必要な力を、儀式に頼らず、魔石で代用し送り込む術が研究され、実用段階にきている」


手のひらに取り出した濃い緑色の石をビアンカに見せながら、再び口を開く。渡された石は冷ややかな感触を伝えるのみで、ビアンカのほしい答えは与えてくれない。


「以前、儀式が軽んじられ、結界が綻び災禍が訪れた。その教訓から、誂えられたものだ。数は少ないため猶予を数年伸ばす程度だが、儀式の再開までは、何とか持ち堪えることができよう」


「儀式を行わないと、どうなるというのですか。わたくしにだって、特別な力など…」


そうでしょ、と父に石を押し返し問うが、首を横に振られてしまう。


「儀式が途切れたとき、魔物や魔獣の出現率があがり、国は優先事項として、この研究を進めてきた」

「待って!お、お父様。私にだって、そんな力ないわ。だって、魔力だってないもの」

「父や祖父、私の力は微々たるものだった。だが、お前は違う。覚えてはいないか…」

「どういうことです…?」

「付いてきなさい」


父は、ビアンカの手を取ると部屋の奥にある扉を開けて中に導びく。自分は何かを忘れている…?一体何があるというのか。この先に答えがあるのだろうか、促されるまま大人しく手を引かれて扉を潜る。




「ここは?」

「お待ちしておりました」


手を取られ中に入ったビアンカは、人が居た事に声を掛けられてから気付く。父親よりも年配の男だ。服装を見るからに、それは美術館の他の職員の制服に似ているが、一般の職員のそれより明らかに格が上である。


「美術館の館長を務めておられるシュミット氏だ。幼い頃にお前は都合二度会っているのだが、覚えているか」


否と答えようとして、何かが脳裏に蘇る。何時、何処で、ハッキリとしない切れ切れになった何かの断片が脳裏に浮かぶ。でも、意味を持つ形には繋がらない。ただ、安心させるように柔和に微笑む、その表情を昔に見たことが有るような気がした。


「何処かで…」

「幼くいらしたので、覚えてなくとも無理はありません」

「お前の力は強すぎた。そして、それを導く知識も経験も我々にはなかった。そこで、身体が成長するまでは、力を抑えることにした。お前が八歳の時だ」

「それを施したのが、当時魔法師団で、研究職として働いていた私です」

「力を封じた…?」






「お前は、聖女の力を受け継ぐ存在だ」






2021/5/22 サブタイトル追加

2021/7/23 誤植修正

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