第5話 公爵令息の友人
「くくっ、だとよ、レオ」
時同じくして、街に出てきていたのは、その騒ぎの元凶たるレオナルドとその友人だった。
お忍びで来た祭りだったが、どうやら同じように街に繰り出している貴族の子女もいるのだろう。騒動から日も経ってないこともあり、隣の友人の話題は、まだ女の子たちの間では、人気なようだ。近くから同行者の話題が聞こえて、堪えきれずに思わず声に出して笑ってしまった。
「笑うな。うちの学院の子達か? 全く、女性は噂好きなんだから、困ったもんだな」
「格好のネタを提供しておきながら、そりゃ、ないだろう」
何だかんだで、仲良い幼馴染との仲を前に進めることになったレオナルドは、可愛い婚約者から強請られて此処にいた。人混みを避けて、公園の会場が見えるレストランで落ち合えばいいのだが、街の雰囲気も見てみたいというソフィアの希望で、街中での待ち合わせとなった。
「もうすぐだな、ソフィア嬢との待ち合わせ場所」
当然、護衛をという話になったが、冒険者として活躍する友人も一緒だということで、ある程度の自由を獲得し、楽しめることとなった。
「俺は、人混み嫌いなんだ。ソフィアの頼みじゃなきゃこんなこと来ないって」
「婚約者の頼みなら、こんなことまで来るとは、愛ですかねー」
「茶化すな。嫌いなら来ないよ」
「…へぇー」
以前までは、隣国との縁談で煩わされたことを契機に、面倒くさがっている様子だったレオナルドの変化に、ディエゴは素直に驚いた。
「いいんじゃね?」
公爵家という柵を背負いながら、自分の立ち位置を受け入れて立つレオナルドをディエゴは、尊敬していた。冒険者として身を立てて、いつかは、家を出ることし考えていない。そんな自分とは違って己の定めを受け入れて前を見つめる彼の努力は見て来たが、厭っていたはずの事柄に対する変化には、驚いたが悪いものではないと、笑みを向ける。
「レオ様」
仮装してる彼らに迷いなくソフィアが声をかける。
「ふふっ、お二人は仲良しですのね」
「待たせてしまったか、申し訳ない」
ソフィアが連れていた護衛が周囲を警戒していたが、婚約者のレオナルドとディエゴの登場を受け、身を引いて姿を消した。近くで、引き続き警護には当たるのだろうが、これも彼らへの信頼か、側での守りは任せて目に見えるところからは姿を消す。
「いいえ、楽しみすぎて早くに着いてしまったのです」
「本日は、ご一緒させていただきます。宜しくお願いします」
冒険者として、評価を得ているディエゴが来るならばと、仰々しくしすぎないで、というソフィアの希望が通った形だ。レオナルド自身も腕には覚えがあり、それも込みで当初の警護体制を少し見直させ、本日の布陣となった。
「よろしくお願いしますね、ディエゴ様」
「ソフィア様に、そう呼ばれるのは、恐れ多い。ディエゴとお呼びください」
「あら、でしたら、ディエゴもソフィアとお呼びください」
「それは、友人の怒りを買うかもしれませんし、ソフィア様でお許しください」
「まぁ、気になさらないと思いますけど…」
「早くしないとメイン会場で目当ての演目が始まってしまうぞ。先に、この辺を少し見て回りたいのだろう?」
食い下がろうとしているソフィアを本日の目当てで、会話を打ち切らせて、手を差し出す。
「えぇ、まだ、少し時間がありますもの」
嬉しそうにレオナルドの手を取りソフィアが、心なしか早い足取りで歩きだす。三人で中央公園の付近の出店を見て回る。満足したソフィアを連れて向かったのは、広場に隣接したレストランの入り口だ。そのレストランの中層階の広いオープンテラスからは、公園の舞台がよく見える。
一方、ビアンカ達は、彼らが訪れたレストランからは対面の水路に来ていた。喧騒の中、広い公園の敷地は、人で埋め尽くされている。中央の会場が噴水を囲む様に設営されており、公園の脇を流れる水路にはゴンドラが浮かんで、特等席を確保した人々が、今か今かと開演を待っていた。
ビアンカは、ジュリアが確保した大きなゴンドラから会場を眺めていた。中央公園のすぐそばの方が、楽団の距離は近いが、立ち見では群数に押されて、彼女たちは耐えられないだろう。今回は、誘いを掛けたジュリアが予め立派なゴンドラを一隻予約しており、彼女達は案内されるがままに、街中の散策を楽しんだ後、ゴンドラの席に腰を落ち着けていた。
「こちらをお持ちになって!」
渡されたのは、2つの丸いレンズがついた初めて見る形状の魔道具だった。
「こちらから覗き込めば近くにいる様に、仔細ごらんになれますわ。音響は、ゴンドラのこちらの器具からも出てきます。煩いようでしたら音量の調整をいたしますので、仰ってくださいね」
ジュリアから受け取った魔道具を目に当ててみると、数十メートル離れた舞台がクリアに見えた。湧き出る噴水が、開園に向けて水量を押さえながら静まる様、周囲を照らす光に輝く雫が舞う様まで映し出す。
「ジュリア、これ、凄いわね」
「とても素晴らしいわ、遠くの方のお顔もこんなにはっきり見えるなんて、驚いたわ!」
感動するメアリとコリンナ、当然ビアンカも驚いている。
「ジュリア、…準備が良すぎるわ。でも、ありがとう」
「凄く楽しみだったのよ。ご一緒できて、嬉しいのはこっちよ!」
ビアンカは、ジュリアが本当に一緒に来るのを楽しみに、準備して来れてたことが嬉しかった。思わず、涙が目の端に滲む。
舞台を除く明かりが一斉に落ち、煌々と照らされているのは中央の舞台のみとなった。ビアンカの嬉し涙は見られることなく、舞台の幕が開けた。
楽団が披露するのは、初めの一曲はみんながよく知るこの祭りの歌。
戦果の後の怨嗟を鎮め
勝鬨を祝い
豊穣を願う歌
華やかな祭りの会場の空気が、徐々に温まっていく。カーニバルでは、定番の唄。大きな戦禍の犠牲となった死者の鎮魂と豊穣を祈り供物を捧げて奉納する唄は、例年、祭壇に向かって祈りを捧げるために舞とともに覚えさせられたものに似ている。
それはビアンカに忘れていた重たい気持ちを思い起こさせた。
道中、また来年も来ましょうね。そう口々に皆が言ってくれるのに、ええ!と応えたビアンカだったが、この楽しさも今年限りだろうか、と思うと寂しくなる。
カーニバルの切っ掛けとなった唄は、ビアンカが例年、唄っているものよりは言い回しも新しく、カーニバルの雰囲気に相応しい軽快な音楽に、会場の空気と同じくビアンカの心も徐々に温まっていく。
次の曲からは宮中でも歌われる流行りの歌から市民に最近流行り始めた吟遊詩人の語る物語。重たい気持ちは、素晴らしい舞台、ゴンドラの音響から演奏と唄が少しずつ洗い流し、今は忘れようと、ビアンカは、夢中で舞台を見つめるのだった。
週1回、と思ってましたが、ストックができてきたので、
少しずつ投下します。
最低でも週1回、で続けていきますので、よろしくお願いします。
2021/5/22 サブタイトル追加
2021/7/23 誤植修正




