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第4話 友人とカーニバル




カーニバルが始まり、街は普段と違う様相を呈していた。露店が並び、街の人々も観光客も思い思いに仮装し、皆仮面をつけている。祭り期間には定番となっている串焼きの肉の香りは人々の食欲を掻き立て、色とりどりの飴やチョコ菓子、フルーツもカットされたものが器に盛られピックと共に提供されている。串に刺され香辛料かおる肉など、手に取り易くなっている。

例年なら、ビアンカは、ひっそりと街を離れることになるが、今年は違った。


「ビアンカ、よかったわ。昨年もご一緒できなかったから、とても楽しみにしてましたの!」 

「ジュリア!私も楽しみにしてたわ」


カーニバルの始まりは、数百年前の戦後、鎮魂と豊穣を祈念して始まった。祭典は今でも賑わい、この国の観光の目玉となっている。社交で用いるものだと高価な宝石を使ったり、値が張るのが見て取れるものが多いが、貴族も街に繰り出す時は、市販の仮面に、アレンジを加える程度で街で浮かないようにする。皆ドレスもお忍び用のもので、商家の友人もビアンカも仮面まで付けてしまえば、平民かそうでないかは、街中では見分けはつかない。


「お父様、あなたのことが本当に大切なのね。ビアンカは綺麗だし、心配なのはわかるけど、皆こうして仮面をつけてるのだから、心配しすぎだわ」

「そ、そうね」


家のお役目をビアンカは胡散臭いと思っていた。手伝いが嫌だからというより、魔力や霊力を持たないビアンカとしては、やらされる儀式の意味がわからない。『変な風習ね』と理解を得られなさそうなので、親しい友人にも言っていない。父親は、街に娘がでかけることが心配なのではなく儀式のためだ、と伝えるわけにもいかないので、苦笑いで誤魔化す。


「この人混みですから、逸れてしまいそうですし、逸れてしまった場合、此方で連絡を取り合うことにしましたの」

「これは?」

「街の中でしたら、問題なく連絡が取り合えますわ。父の商会で取り扱ってる通信具です」


それは、鳥を模した真鍮のイヤリングに、綺麗な蒼色の石が鳥の目のところに嵌め込まれていた。


「長い時間は使えないのですが、1日くらいでしたら問題なく使えます」

「よ、宜しいのですか?お借りしてしまって?」

「ええ、お気に召されましたら、優先的に在庫確保しますのでおっしゃって下さい。ふふふっ」


ジュリアの父の商会は、彼女の祖父の代からの新興商会ではあるが、順調に売り上げを伸ばしており、時折、試供品と言って新商品を親しい友人に披露していた。その対価は情報。使用感に関する感想などを商品開発に生かしていた。彼女は、商会の仕事を楽しんでいるようで、いつも楽しげだ。


「これは、試作版なのかしら? 何か具体的に気にしてるところがあるなら、それも踏まえて使用感を伝えるわ」


相変わらずだなぁ、と笑みを深めて、ビアンカは渡された可愛い鳥を見つめた。友人の為になるなら、協力は惜しまない。伝える感想を上手く救い上げて、改良品を作ってくるのが分かっているので、試用に強力するのは楽しい。


「前回、少し重量があったので、イヤリングには向きませんでしたの。少し重量があるかもしれませんが、極限まで抑えてみましたので、一日つけてみて、イヤリングとしての装着感などお聞かせくださると嬉しいわ」

「分かったわ」




少し小高いところに王城があり、城下は街を流れる運河、水路と共に栄えてきた土地だった。彼女達は、市街地の入り口にある展望台にいた。貴族街と市街地を隔てる公園の外れで落ち合い、そこからは、すぐに城下町に下ることができる。






「ビアンカ、この先は、お店が公園まで続いているの。今日は、中央公園までお店を見ながら向かいましょう」

「ええ!楽しみだわ」


子爵のメアリ、服飾関係の商家のコリンの2人も集まった。仮面を外した状態で、何処から見ていこうか相談を済ませたら、皆で仮面を付けて街に降りていく。


「あら、メアリの羽根とても綺麗。これは、ブルーバードかしら? とても素敵ね!」

「コリンナのドレスも、最近、流行りの新作ドレスにも使われてる生地でしょ? 落ち着いた柄で、ふわりと舞う時の軽やかさが美しいわ」


仲良い学友とカーニバルの街に出られる。友人達の会話を聞いて、長年の夢が叶って、ビアンカは感無量である。皆もカーニバルは楽しみにしていたようで、仮面もドレスは今日のために誂えていた。ビアンカも時間を掛けられなかったが、自分の瞳の赤に合わせた暖色系のドレスと仮面を用意し、生花を使った髪飾りを合わせた。出かける前に、我ながらいい出来だと、姿見にその姿を何度も映していた。


「ビアンカの編み込み可愛い、どうなってるのこれ?」

「うちのメイドに任せたら、張り切ってくれて、変じゃないかしら」

「可愛いわ!ドレスと仮面にも合ってるし素敵よ」

「ありがとう、こうして、カーニバルでみんなと出かけられるなんて、私幸せだわ」


王立学院での生活で、お互いのことはよく分かっているつもりだ。行きたそうにしてたのに、昨年も行けなくて、しょんぼりしてきたビアンカのことを知っていた皆は、ビアンカを温かい眼差しで見つめる。


「今日は、沢山いろんなもの見て、食べて、楽しみましょうね!」

「ええ! わたくしも街に出る許可をもらえたのは、高等科からですの」


それからは、まだ食べたことがない、メアリが見つけたフワフワした生地に砂糖が塗された丸い揚げ菓子を皆んなで分け合った。水路には花で装飾されたゴンドラを水竜が引いており、仮面をつけた人々が、祭りを堪能していた。


「わぁ、美味しい」


屋台で目に止めて購入したのは、器によそわれた冷たい菓子。クリーム上で、ツンと角が立っている。感嘆の声を上げたのはコリンナだ。ミラコーラでは定番の菓子だが、歩いて少し喉が渇いているとあっては、その美味しさも一入である。


「お姉さんたち、観光?」

「いえ」

「あ、そうなんだ。お揃いにしてるそれ、素敵なイヤリングだね、今日はこんな感じだけど、普段は、向こうの通りで装飾品も扱うお店やってるから。よかったら、今度お店に顔を出してよ」



器を残り三つを順番に手渡しながら、声を掛けられた。初めての王都と祭りにはしゃぐ観光客に見えたのか。ビアンカは、少し恥ずかし気に、彼の問いかけに違うと答える。流れてくる人波を上手くあしらう男をチラッとみる。鼻筋が通った若い男だった。熱気に当てられ滴る汗が額から流れている。器用に注文に対応しながら、話しかけてくる。普段は、メイン通りではなく指さす隣の通りで商いをしているらしい。


「此処は例年だしてるんだけど、本業は魔道具屋なんだ。気に留まる品もあるかもしれないしよかったら、どうぞ」


男のように飲食店が本業ではない者も祭りの日だけ、他の店舗の手伝いや場所を借りて出店する者もいる。確かに通ってきた店もそうだが、簡易な天幕で出店している内容とその裏にある店舗は必ずしも業態を一致させてはいない。


「ありがとう」


品物と対価を受け渡すやりとりの間に差し込まれた会話はさておき、男が差し出してくれたジェラードはヒンヤリして、ビアンカの渇きをいやしてくれるが、何より甘く豊かな香りが鼻を通り抜けて、そちらに気を取られる。

フードを被った旅人と思しき面々が脇のテーブルで食べていたの気になって立ち寄ってみたが、筆舌に尽くし難し美味さだ。しかも、使われている果物の正体が知れない。他国の果実だろうか。卸に来たと思しき業者の荷には、見慣れぬ果実の入った籠も見受けられた。

店で堪能したビアンカ達は、礼を言って離れる直前、店員に店のカードを差しだされ受け取った。

この店舗のカードの下にも1枚、彼自身の魔道具屋のカードも隠れていた。

商魂たくましいとと思うビアンカだった。






店を見ながら随分と歩いてきたが、ようやく彼女たちの視界に、目的地が入った。公園周辺は、人も多い。仮面をしてる人がほとんどだから、知り合いがいても見つけることは難しいだろう。


「そういえば、先日のレオナルド様のフィアンセ募集みまして?」

「見ましたわ!わたくし知ったの翌日だったんです。知ってたら手を挙げたかったです」

「実は少し用事があって、近くにいたので、その、門前の様子を見たんですけど、凄い人だかりでしたわよ」

「あら、ビアンカ、レオナルド様のことが?」


メアリとコリンナの会話に、当日の様子を思い浮かべて答えるとジュリアからのあらぬ誤解に、汗を掻くことになった。


「まさかっ、畏れ多いわ。まぁ、婚姻もそろそろって考えることはあるけど、流石に身分違いですもの」

「ビアンカは美人なんだから、もっと自信もっていいのに、貴方なら見初められて! なんてこともあるわよ」

「コリンナ、ビアンカは、社交でもそつ無くこなして、美味しいもの適度に食べて満足して帰ってしまうのよ」

「メ、メアリ、まぁ、間違ってないけど。まぁ、玉の輿って考えてみたこともあるけど、分不相応な願いを叶えられるほど、その熱意のあるほかの方を見て、そこまではできないって思ってしまいましたわ。それにしても、学園で遠目に見たことはありますけど、あんな挑発的な記事で、市井を揶揄うようなこと、婚約者になる方は、苦労なさるんじゃないかしら」




あの記事は、庶民からしたら謎だっただろう。踊らされた子女からのクレームも当然入っていただろうが、その声が公爵家に直接届く確率は極めて低いだろう。あの喧騒を見た一人としては、何考えてるんだか、ぐらいボヤいても許されるだろう。そう思っての発言だった。






ぎくりと、彼女の発言で、足を止めて彼女たちを見つめる人物がいたのに、彼女たちは気づかなかった。今日はカーニバル、皆、仮面をつけており、その正体は知れない。





2021/5/22 サブタイトル追加

2021/7/23 誤植修正

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