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第39話 ソフィアとレオナルドの願い




ソフィアは自室の寝台に横たわり、ため息を吐いた。家の者が心配するのは仕方がないが、身体はもう何ともない。寝台からでることを許してくれない周囲の懇願に負けて、安静にしているが、暇すぎてため息もでるだろう。


そんな時、耳に付けたイヤリングが光り、薄暗い部屋を照らした。


『ソフィア』

「レオ様」

『突然、すまない』

「いいえ、暇を持て余していましたの。お声が聞けて嬉しいですわ。せっかく会いに来てくださったのに、あまりお話しできませんでしたもの」

『そうか、そうだな……』


レオナルドの声に喜ぶソフィアだったが、その声色にソフィアは”やっぱり”と思う。


「レオ様は、今日はどうされてたのですか?」

『今日は、そうだな、オルランドの店に行ってきた』

「まぁ、では、ビアンカたちにもお会いになりまして?」


ディエゴは、オルランドの店で聞いたことをソフィアに伝えるか思案し、差し障りのないビアンカたちの様子をソフィアに伝える。家にいたソフィアは、それを楽しそうに聞いて、レオナルドの声色もかけてきた当初より、少しいつもの調子を取り戻す。


「オルランドさんは、何か仰ってましたか?」


今回のことについて、側に居たレオナルドは、気に病んでいるだろう、とソフィアは心配していた。きっと、オルランドのところに行ったのも何か情報を得るためだろう。


『ああ……』

「レオ様、わたくし、本当のことが知りたいですわ」


何かをレオナルドが告げようとするのであれば、彼が耳にしただろう情報は、自分も知っておきたい。ソフィアは、言いよどむレオナルドを促した。




オルランドを通じて、王宮にいる父親たちとの会話を聞いたという、レオナルドに少し驚いたソフィアだったが、重たい彼の口調の理由を察することができた。


『こんなことになって、本当に……』

「レオ様、わたくし何を聞いても、そんな苦しそうな声の貴方を独りにするつもりはありませんわ」

『何を言って…』

「先日は、庭園を見ていただきたかったんですのに残念ですわ。ゆっくりお休みなって、元気な顔をお見せになってください」

『分かった』




光が消えた室内の暗闇の中、次に会った時にレオナルドが告げるだろう言葉を想像して、キュッと胸が痛んだ。爪を隠して不器用に立ち回る彼の姿を遠目に、ずっと見てきた。彼と並んで歩ける自分になろうと研鑽を積んできた努力を此処で止めるつもりはソフィアには毛頭なかった。


神妙な顔で、彼が”その言葉”を告げて来たら、どう答えるかと通話を終えて、ソフィアは思案する。不器用で心優しい彼が、選ぶ道はきっと、また、自分を遠ざける道なのだろうけれど、そんな優しさなどソフィアは求めていない。




何度もその場面を想像するけれど、引け目を感じながらツラそうに告げるだろう彼の表情を想像して、思わず誰も居ない部屋で少し責めるように口にする。


「本当に、仕方のない人ですわね」

「それは俺の事か?」

「……!?」


幻聴……ではない。


バルコニーから声がしてソフィアは、カーテンを開けた。少し前に会話していた相手が、そこにはいた。不意を突いた登場に、珍しくソフィアは狼狽える。


「レオ様!?」

「直ぐに済むから、開けてくれるか」


その時がきたら何と返そうか。その答えは決まっているが、まだ心は整理しきれていない。考えていたよりも早く訪れたレオナルドとの対面に、ソフィアは、不安げに自分の前に持って来た手を握りしめる。


「ソフィア、頼む」

「え、ええ」


開けたくない。もう少し時間がほしかった。レオンルドの顔をみた刹那に浮かんだ考えが、ソフィアの手を止めさせたが、名を呼ばれてソフィアは鍵に手を掛けて窓を開けると涼やかな風にレースのカーテンがふわりと揺れた。


「こんな時間に、どうされたんですか。驚いてしまいましたわ」

「すまない。明日まで、待てなかった」


口元に笑みを浮かべながら、僅かに眉を寄せるレオナルドの面持ちに彼の苦悩が伺えた。悩んで出した結論が、想像どおりであれば、それをソフィアはまだ聞きたくなかった。


そんなソフィアの心情も知らずに、部屋に入って来たレオナルドは真っすぐにソフィアを見つめて、徐に胸元から小さな箱を取り出した。そして、彼は、跪き小さな小箱を開けて、ソフィアの前に差し出した。




「ソフィア、私の伴侶になって欲しい」

「え……」




目の前に差し出された青い宝石は月明りを受けて光る。ソフィアは、予想していなかったレオナルドの来訪と告げられた言葉に唖然として言葉が出てこなかった。そんな様子にレオナルドは眉を落としたが、ゆっくりと言葉を重ねる。


「私のせいで、害が及んだ可能性があるとのだと解ってはいる。今回のことが違ったとしても……また、同じような危険に晒してしまうかもしれない。それでも、私の側に居てほしい。今回の件、必ず落とし前はつけさせる。それまで返事は待つ。ゆっくり考えてくれて構わない。だが、身勝手だとは解っているが、伝えておきたかった」


レオナルドが手にしていたそれは、ソフィアが倒れた日にレオナルドが渡そうとしていた品だった。そして、ビアンカとソフィアが北の大陸の天然石の店でみたタンザナイトだ。青く輝く石は加工され、ネックレスになっていた。


未婚の女性に男性から送る宝飾品。それも女性に縁のある生誕の暦に紐づく護り石とされる宝石や相手の身体、例えば瞳の色に合わせた品が求婚に用いられる。


レオナルドは、自分が狙われた理由を知ったら、ソフィアは自分からは離れて行ってしまうかもしれないと思った。だけど彼女の身の安全のためには、そうするべきではないかとも。その一方で、婚約の解消の申し出が告げられるのを想像すると無性に落ち着かなくなった。


イヤリングから零れてきたソフィアの声に背中を押されて、居てもたってもいられなくなったレオナルドは、ソフィアの屋敷を忍んで訪れた。


「レオ様」

「……ああ」

「本当に仕方のない人ですわね。わたくし、ずっと幼い頃から貴方だけをお慕い申し上げているのですよ。”喜んで”、以外の答えはありませんわ。着けてくださるかしら」


レオナルドの差し出す小箱を受け取り、立ち上がるのを促したソフィアは、後ろを向いて髪を避けて首筋をレオナルドに晒す。髪を掻き分ける仕草に、少しドギマギしつつネックレスをその細い首にとめた。


「レオ様、わたくし幸せですわ」

「ソフィア……」

「また、貴方は独りになるおつもりなのかと思って」

「……」


レオナルドは、振り返ったソフィアの胸に光る石にそっと触れる。振り返ったソフィアの目元に薄っすらと涙がにじんでいる。


「すまない。危険が及ぶかもしれない。それでも」


眉を下げソフィアの目元を拭うレオナルドを、ソフィアは愛おし気に見つめる。以前とは違って、遠ざけることなく、側に居ていいと言ってくれるレオナルドの言葉が嬉しかった。


「喜んで。わたくしの答えに変わりはありませんわ。だから、そんな顔しないでくださいな」


薄っすら月明りが差し込む室内で、オルランドの提案を聞いたソフィアは、それにも賛同の意を示す。何者かが脅かそうとするのであれば、それに共に立ち向かうと、ビアンカと同じように彼らも決意を固める。寄り添う二人の影が重なり合う。窓から差し込む月の光が、二人を照らしていた。





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