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第32話 二つの選択肢




仲間の呼びかけで、ビアンカの意識は戻って来た。再起動すると脳内を駆け巡った言葉が次々と出てくる。


「オルランドさん」

「はい?」

「”魔王”を滅する戦い、と仰いました?」

「うん」


自分の力を知らなかった頃、ビアンカにとって”魔王”は、”聖女”はお伽噺の中の存在だと思っていた。話の中では、聖女と仲間たちによって魔王は倒されたことになっていた。だけど、それは史実に基づく話になのだとビアンカは知った。『悪しき魔』は、今も結界によって封じられているのだと。


「後顧の憂いを完全に消し去りたいなら、そうするしかないね。それに、君、聖女の力で、神樹を浄化したんでしょ? それに、ほらこれも」


「そうですけど…」


仮に力があるとしたって…、それはボルゼーゲ家の血を継ぐ者が持つ力で、本物の聖女のような力など、そう訴えようとするビアンカに、オルランドは、赤い石いを指さした。


「こんなのものが、すぐに実るなんて、想像以上の魔力量だよ」

「で、でも、わたし戦う術なんて」


眼の奥に興奮したような輝きを宿らせるオルランドに、少し気圧されつつも魔王と戦うだなんて戦う力がない自分には無理だと主張する。


「そうだね。聖女の力は、癒す・護るに特化してたからね。…だから、封印しかできなかったんだし」

「でしたら…、聖女様と同じような力があるとしても、わたくしになんて…」

「そうだね。だから、言ったでしょ?君”たち”って」


心配そうにビアンカを見ていたソフィア

起動したビアンカに、やれやれと茶を啜るレオナルド

ハラハラしながら見つめるディエゴ


「かつての聖女にも共に戦う仲間がいたんだよ。君”たち”みたいなね」


矛先を向けられて一様に目を見開く。




「ははっ、安心して、今すぐに選択してもらうために君たちを呼んだんじゃないよ」

「…」

「今はいろいろと王宮も忙しいみたいだしね。若い君たちには時間がある。次代に託すまで役目を今まで通りに努めることも一つの選択だよ。どうするかは、ゆっくり考えればいいさ」




聖女が作った結界を改変することは難しいとオルランドは言う。『悪しき魔』を滅するのに長い時間がかかっているのは、役目を担う者たちに強い力を持つ者が安定して生まれてこなかったことも一因だ。ビアンカが力の扱いに慣れて、儀式を行う頻度を上げることが、今とれる最善の策だという。


「では、それで少しは、封じられた『悪しき魔』の浄化は進むということですね」

「そうだね、むしろ、年に一度の儀式で君の魔力が良く溢れなかったものだと不思議なんだけどね」


オルランドには、戦いを強いるつもりはないようだ。ビアンカたちが望んだことの答え、選択しうる道を教えてくれる。動揺する四人に苦笑する。


「そういえば、愚兄は元気にしてたかな?」

「「…!」」

「オルランドさん、お兄様ってエルロンドさんですよね…?」

「そうだよ」


肯定の言葉の意味通りであれば、オルランドは…。目の前に立つ男は、どこから見ても自分たちと同じ人間だ。だが、エルフの里であったエルロンド、顔だちも髪の色も今思えば血の繋がりを感じずにはいられない。


「では…」


明確に言葉にはしなかったビアンカたちに対して、オルランドは言葉を返さなかったが、ニコリと笑みを浮かべ何かを呟いた。すると茶色みがかった瞳の色は緑に、そして、流れる髪から覗いていた耳が彼の地で見たエルロンドたちと同じように、ツンと尖った。


「エルフだったんですね…」

「まぁ…」



ビアンカたちは、エルフの里でその事実は知ったものの、目の当たりにすると、やはり驚いてしまう。お伽噺の住人だと思っていた遥々会いに行った種族、その一人に自分たちが既に面識があったとは、初めて会った時には思いもしなかった。


「そういう顔が見れるのも一つの楽しみかもね」


そう言って笑う彼の顔は、別れ際に見せたエルロンドの笑顔によく似ている。やはり、兄弟なのだな、と実感するビアンカたちだった。






オルランドはビアンカたちの北の大陸での出来事に関して、思ったよりも情報を得ているようだった。神樹や湖でのことも詳細を既にオルランドは知っていた。彼にとっても神樹や湖の異変は、想定外だったようで故郷の危機を救ったことを感謝された。


「予期していないことだったけど、そんな時期に君たちが居てくれて、本当に幸運だった」


そう言って彼は、ビアンカとディエゴの顔を見つめる。


「オルランド……貴方は、この剣をディエゴに授けたときには、分かってたのですか?」

「何がだい?」

「…ディエゴがいなければ湖での戦闘、無事に切り抜けられなかったかもしれません」


ビアンカとディエゴも此処に来たら聞きたいと思っていたことだ。レオナルドがそれを問う。長命なオルランドであれば、聖女の力のことをビアンカ自身よりも詳しく知っているのではないか。それにディエゴにあの武器を与えた彼の意図を知りたかった。


「半信半疑…、いや、あまり期待はしてなかったんだよね」

「それは、どういう…?」

「何となくだったんだけどね…。君…、もしかしてヘルトの出自かな?」

「どうしてですか?」

「"勇者"の血を継ぐ者の血筋かな、と思ってね」

「勇者…!?」

「ヘルトでは、そう呼ばれているね」


ビアンカは、オルランドの視線の先に目をやる。ディエゴは、オルランドの言葉に息をのみ、驚きに目を見開いていた。


古の戦いの後、その時の大国は、いつの頃だっただろうかミラコーラとヘルトに分かれ、別々の国となった。ヘルトは、聖女と共に戦った勇者の子孫が発展させた国であり、そこでは、お伽噺で活躍するのは魔物の大群を屠り国を守ったとされる勇者だという。


「ヘルトでは、そうなのですね…」

「両親の血筋は、確かにヘルトですが、レオナルドならまだしも、俺は魔法に適性があるわけでまりませんが…?」

「ん? まぁ、聖女を守る騎士団に魔法に優れた奴が居たけど、勇者は違ったし、君と同じように魔法は使えなかった…らしいけどね」

「……オルランドさん、流石ですわ」


ヘルトのお伽噺に詳しくないビアンカは、そうなんだと素直にオルランドの言葉を聞いていたが、文献や教会で聞いたことがなかったことも詳しく語るオルランドに、ソフィアが称賛の言葉を贈る。


「伝わってる情報も少ないし、知ってることなんて限られてるけどね。勇者と呼ばれた者は、彼自身が魔力を備えていたわけではない。聖女の神聖な気を己が器に満たし、その刃で魔を滅することができる稀有な存在だった」

「まるでお会いになった事があるみたいにお詳しいのですね」

「…さてねえ、聖女が一人で相対することにならなければ、あの戦いで、『悪しき魔』を滅することも出来たんじゃないか……という説もあるね」


それとなくソフィアが振る話題に、彼は明確なことは告げずに話をはぐらかす。けれど、懐かしそうな表情を浮かべているようにも見えて、そして瞳の奥は悲しい光が宿っている気がした。


「ただ、何となくね。伝え聞く勇者に似ている気がしてね。君に預けてみようと思ったんだ。まさか、早速にエルフの土地で、その刀が役に立つとは思ってなかったから…。数奇な運命だ、とは思ってしまうね」


オルランドは、ディエゴに託した剣には元となった一振りの剣があるという。それも聖女の杖と一緒に、とある場所に納められていると言う。ディエゴに渡したのは、それを模して作った急ごしらえの品らしい。湖でその剣の力に助けられた四人としては、急ごしらえと言われて、それに驚きもする。


「君たちが望むなら、その時は案内するよ。エルフの長も認めた資格ある者たちだからね」


オルランドは、その時まで託すといって、琥珀の首飾りをビアンカに返してくれた。『鍵』だとエルロンドが言った言葉も蘇ってくる。今までと同じように首に下げてみるが、前よりもずしりと重みを感じる。




「気がかりなことは色々あるけど、僕たちに今できることはないしね。宰相さんたちにお任せするとして、それよりっ! 今は、国中がお祝いムードだろ。君たちは、パーティーに出るんだろ?」


話はお終いだというように、オルランドは、迫っているミラコーラとヘルト間の婚約の宴について聞いて来る。オルランドにもエルフの族長の縁者、招待状は届いているはずだが、何だか他人事なようだ。彼自身は、興味がないのだろうか。


「ああ、出る者が殆どだが…」


レオナルドが、調子を戻して明るく振る舞うオルランドの話に乗る。ディエゴの方をチラッと見てから、レオナルドがそう答えた。


「ふーん。そうなんだ」


寄り添うように立つレオナルドとソフィア、少し間を開けて立つビアンカとディエゴを見て、オルランドは微笑みを浮かべて、ビアンカに手を差し伸べた。


「夜会かぁ…、僕あまり好きじゃなくて、出た事ほとんどないんだけど、可愛いお嬢さんが一緒なら楽しいかもね。もし、お相手がまだなら、お嬢さん、僕と一緒にどう?」

「…えっ?」


ビアンカは、唐突に片目を閉じて、茶目っ気溢れる表情で差し出された手に、目を見開く。


「もうお相手はお決まりですか?」

「それは…」


店に着く直前にも話題になり、一旦脇に置いて忘れることにしたのに、まさかオルランドから申し込まれるとは思いもしなかった。ビアンカは、どうしたらよいか困って、隣に立つディエゴに不安げな眼を向けてしまう。


ビアンカの視線は、ディエゴのそれとぶつかった。


「…!」


無意識に視線を向けてしまって、何をしてるんだとビアンカは直ぐに目を反らした。アルミノは早々に断ったと聞く、同じように冒険者のディエゴだって、わざわざ出かけたいところではないかもしれない。オルランドに差し出された手には自分で応えなければと向き直る。


「オルランドさん、割り込んでしまって申し訳ないですが、そういうお話でしたら、私も発言させていただきますね」

「ディエゴ様…?」


ビアンカが口を開く前に、ディエゴはそう言って、恭しい礼をして片手を差し出す。


「ビアンカ様、私にご一緒させていただく栄誉をお与えください」

「は、はいっ」


一も二もなく、肯定を返していた。父親は良い顔をしない気がするとか今日まで考えてことがあったはずなのに、ビアンカは申し出を受け入れていた。


ディエゴの手を取ったビアンカと、差し出した手を引いたオルランド。彼の仕草に、ビアンカはハッとなった。


「あ、あのっ、オルランドさん」

「くっくくくく、いやいや、良いんだよ相手が決まったんだったら、それで」


完全に無視された形になったオルランドだったが、何やら本人は気分を害している様子はなく、顔を赤らめて取った手の持ち主とオルランドの顔を交互に視線を泳がせるビアンカを満足そうに見ている。


「限られた時を想いのままに生きることが一番だよ」




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