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第31話 オルランドとの再会




ビアンカたちは、オルランドの店に向かう馬車に揺られていた。折角会えた四人での道中だったが、水門や国境での魔物の話で少し馬車の中の空気は重くなってしまった。そんな空気を払拭しようとレオナルドが明るい声でビアンカに話を振って来た。


「そういえば、ビアンカ嬢はパーティーには誰と行くんだ?」

「「…!!?」」

「アルミノとディエゴにも声が掛かっただろ?」


一緒に旅した仲間の中で、レオナルドとソフィア以外にも二コラ隊長は貴族なので、もとより参加予定だ。アルミノとディエゴも今回、調査隊としてエルフとの国交の深化に寄与したとして招待されていた。ただ、アルミノは、良い報酬だからと仕事を優先させるらしく、早々に断っていた。


「わ、わたくしは、その母が選ぶと言ってましたが…、その、まだ」


母親からは、『誰かお相手がいるならそれでもいいのですよ?』そう言われビアンカは、一瞬ディエゴの顔を思い浮かべたが、咄嗟にそんな相手はいないと返した。母親は、思い当たる方がいるなら遠慮なく言えとビアンカに告げた。見つからなかった場合は、伯父か誰かに話を通しているのだろう。


「レオ様、間もなく着きますわ。話の続きは、また後にいたしましょう。わたくしも大いに興味はありますけれど」

「ああ」


同じことはソフィアも思っていたのだが、すでに馬車が徐行を始めていたため、口ごもるビアンカに微笑み向けて、続きは後にしましょうとレオナルドを止めた。馬車はオルランドの店で動きを止めた。


「どうぞ」

「ありがとうございます…」


馬車から降りるビアンカにディエゴが手を差し出した。ディエゴの手にそっと手を重ねるが、気恥ずかしくてビアンカは、ディエゴの顔が見れなかった。


「オルランド氏も変わりないですかね」

「え、ええ、久しぶりにお会いするの楽しみですね」


パートナーと言われて、ディエゴと並び立ってる姿を想像してしまった。数日ぶりに他愛ない会話ができて嬉しいのに、余計なことを考えて悶々としてしまうのはもったいない。いまは忘れよう、そう気持ちを切り替えてビアンカは、オルランドの魔道具店に足を踏み入れた。




店ではオルランドが迎え入れてくれた。彼もビアンカたちの無事を喜んでくれた。



「オルランドさん、これは…」

「隠し扉になっててね」


ビアンカたちは、一階の奥の書棚前に案内された。書棚を彼が軽く押すと書棚が動き、隠されていた工房がビアンカたちの目に入った。


「狭いけど、どうぞ」


オルランドが四人を招き入れる。壁際にはぎっしりと本が詰まった棚、小瓶に入った様々な色の薬品や魔石、植物と器具が納められた棚が並んでいた。ビアンカは、初めて目にする珍しい品々に、部屋の端から端に視線を彷徨わせてしまう。そして、中央の机には、北の大陸から持ち替えった品々が、並べ得られているようだ。ビアンカも荷造りで目にしたものがある。預けていたボルゼーゲ家が管理する家宝も並べられていた。


「早速だけど、”それ”見せてくれるかな」


広々とした机の周りに小ぶりな椅子が並べられてり、勧められるままにビアンカたちはそこに腰を掛けた。彼が指さしたのは、ビアンカが下げていた彼からもらったお守りだ。


「お陰で無事に里に入ることができた礼を言う」

「役に立ったのなら、よかった」


オルランドが琥珀を指で撫でると虚空に円陣が浮かび上がった。里でエルロンドが羽で描いた文様だ。それをオルランドは、しげしげと見つめる。


「まぁっ!」

「何もないように見えたんですけど」

「…オルランド、これは?」

「ここまでとは予想していなかったんだよね。頭の固い人も多いからさ」


何も変化がないように見えた首飾りだったが、やはりエルロンドが刻んだ何かはしっかりと首飾りの中に秘められていたようだ。ソフィアも驚きの声をあげ、ビアンカとレオナルドが問いかける。


「長であるエルロンドがこれを刻むことで、エルフの里が君たちの目的に協力する、という証になったってとこかな」

「我々の目的は、神具の修復だったわけだが、それは其方にでもできるとエルロンド氏は言っていたが…?」

「ああ、出来るよ」

「だったら…」

「なぜ、エルフの里を尋ねる必要があったかというと、僕の一存だけでは決められない。その代り、僕は君たちを信任する証として、これを渡したんだ。効果あっただろ?」


茶目っ気を出して、片目を閉じるオルランドに、若干、イラッとしたレオナルドが口元を引きつらせるが、どこ吹く風とばかりに、笑いながらオルランドは続ける。


「それに素材はすぐに集まるものでもないからね、族長の許可を得て、その入手を別で考えるつもりだったんだけど、……申し分ないものを持ち帰って来たね」


卓上ならんだ素材を見渡し、そして、木箱を手に取ったオルランドが、それを開けた。箱の中には神樹から授かった赤い石が鎮座していた。他にも金色に輝く糸、緋色の羽、色とりどりの小さな宝石、並べられている素材はエルフの里で用立てててもらったものだ。

オルランドは、赤い石を箱に敷かれた薄い布ごと丁寧に取り出した。


「これが素材なのですか?」

「入手が一番困難だと思っていたものもまさか手に入れてくるとはね。聖属性の魔道具を作るにはこれ以上ない素材だよ」

「では、これで家宝は修復できるのですね」

「出来るよ」


顔をほころばせるビアンカたちだったが、オルランドは笑みを引っ込めてビアンカを見つめる。


「君たちに来てもらったのは、修復をするか否かの選択をして貰うためだよ」

「それは、どういう意味ですか?」


ビアンカたちの目的は、その修復だった。そんな回答が決まりきった質問をするのは、一体なぜだろう。口にしたのはビアンカだったが、他の三人も同じ思いだ。そんな彼らの疑問はオルランドにも伝わる。


「君は報告によると神具がなくとも力が使えたのだろう? その力があれば、あの仮面がなくても君なら儀式を執り行えるようになるだろう。いまこれを修復するのであれば、それは、君が居なくなった時のための保険ということになる。次代の担い手のための備え、ということになる」


じっとオルランドが見つめるのは、ビアンカだ。短剣は力の使い方を覚えたビアンカは、少しずつ力の使い方を旅の中で覚えてきた。そうして力が使えるようになったのであれば、儀式も仮面を使わずともビアンカの力だけで行うことができるようになる、とオルランドは言う。


「もう一つの望みについて、エルロンドは何と言っていたのかな?」




 『愚弟が貴方たちに示すでしょう。貴方たちが必要とするものを手に入れるための路を…』





ビアンカたちの目的は、壊してしまった家宝の修復だった。そして、長い時を掛けても消滅させることができない『悪しき魔』の浄化が少しでも進めばと、せめて結界の強化ができればというのがビアンカたちの願いだった。エルロンドの答えが何を示していたのか、正直ビアンカたちには分らなかった。


「封じられた『悪しき魔』自体を何とかする手立てはあるのでしょうか」

「…ある場所に、古い魔道具が奉納されている。ただ、核となる魔石は、壊れてしまってててね。その復元にも必要なのが、この一つしかない”これ”ってことになるんだよね」


オルランドが指さすのは、仮面の修復に必要だと彼が言った赤い石だ。エルフの里で聞いた話だと神樹がその身から石を授けてくれるのは、どんなに早くとも数十年に一度なのだという。

それは、つまりこの石をどちらかの目的で使ってしまえば、片方の目的を叶えることが当分の間はできなくなってしまうということだ。


「オルランドさん、その魔道具というのは、一体どのようなものなのですか?」

「もちろん、君たちが魔王、『悪しき魔』を滅する戦いで必要となるものだよ」

「たたかう…」


ニコりと告げられた言葉が、ビアンカの脳内をぐるぐると回る。長い時を経ても尚、滅ぶことなく存在しているという『悪しき魔』、かつて絶大な力を誇ったという聖女が、封印することしかできなかった存在と…”たたかう”


何を言っているのだろうか、とオルランドの顔を見るが、彼はいつもの吹けばヒラりと舞うような軽い態度はなりを潜めて、じっとこちらを見つめている。


ビアンカは、口の中が渇いて、飲み込もうとして喉を動かすが、渇いた粘膜が貼り付いただけだった。思い浮かぶのは北の大陸で遭遇したルーパとセルペントの獰猛な姿、感じた恐怖が蘇ってくる。




言葉をなくす四人に、オルランドは選択を迫る。


「さぁ、選んで、仮面を直すのか、『悪しき魔』を滅するための魔道具を入手するのか」






プスンッと音がして、ビアンカが止まった。


「び、ビアンカ!?」

「ビアンカ様!」


「おやおや…、少し休憩にしようかね」


目的を一つ達成して、一安心。家宝を壊した始末を何とかつけることができそうだ、と思っていたところで、示された次の選択は、出発時に想像していたものよりズシりと重いものだった。


”『悪しき魔』を完全に滅するための何らかの手段”は、”『悪しき魔』を滅するために戦う”ことだとオルランドは言う。結果を強化し、その消滅を早めることができれば、という目論見もあったのだが…、当初に想像していたものの斜め上を行く選択肢に、ビアンカの脳は、自己防衛のため、僅かな間、機能を停止した。




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