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第23話 エルフの長との対談




エルフの里にたどり着いたビアンカたちは、来賓として手厚く歓迎を受けていた。エルフの長が居を構える大樹の側にある里一の大きな館では、浴場で疲れを癒すことができた。案内された一室で、夕餉を終えたビアンカたちは、寛いでいたのだが、そこへ、突如として押し入ってきたのは、例の若いエルフだった。




「…壊したって、神具を壊したのですか!!?」




ビアンカが家宝として、持ち込んだ品。聖女のゆかりの品だというのは伝わっていたようだ。彼のよう少しばかり血の気が多い若者にも…。

そして、エルフの里では、神樹(しんじゅ )の存在もあり、聖女は特別な存在として、崇拝の対象となっていた。






――― 時は、少しばかり遡る。


夕餉の席では、旅の経緯を隊長から話をして、彼らからも現在のエルフの状況を聞かせてもらった。魔物の出現と時を同じくして、彼らが神樹と崇める木から、徐々にその生気が失われているらしい。

先触れに持たせた文で、ビアンカたちの用向きは、彼らに正しく伝わっていた。ビアンカが受け継いでいる家宝の件は、この後、ビアンカとエルフの長のみで話をすることになった。






「これが、家宝ですか…?」


長との会談を前にして、隊員にここまで運んでもらった家宝を受け取り、部屋で梱包を解いていると三人が初めて見る品を興味深く覗き込んでくる。素直な感想にビアンカは苦笑する。少し前の自分と同じ思いを持っているのだろう。特に、魔力がないディエゴから見たら、ただの古い仮面だろう。


「ええ、『悪しき魔』を封じる結界を維持し、浄化するための儀式を執り行うためのです」


儀式用の仮面は、すっぽりと頭部全体を覆う形で、側面には飾りとして水晶で模られた羽のような部品が付いている。舞に合わせて長く垂れる頭部の飾りが共に靡くのだ。

見た目は重たそうだが、軽量化の魔法で身に着けても重たさは感じないのだが、殴り付けられたビアンカの父親が大きなこぶを作る程度には硬度がある品であった。


「この仮面の修復の協力を得られるようにお願いしてまいります」

「『悪しき魔』…魔王という方が通りがいいか…、我が国にそれが封印されている、というのはな、…いまだに信じられないがな」


レオナルドとソフィアは、魔道具としての仮面に見入っていたが、ふとレオナルドは、この旅が決まって知りえた魔王の存在について、正直な感想を零す。

ソフィアも同じような気持だが、直接目にした魔物やイーダの父親から感じた禍々しい気配、それらと性質を一にする凶悪な存在がいるのであれば、その脅威を祓いたいと願いを口にする。


「それを浄化するための結界の強化の方法ですか…、何かきかっけが得られれば、良いのですが」

「ソフィア…、そうね。でも、当時、随一の力を持っていたという聖女様が成し得なかったことだもの…、浄化の力を少しでも強化できる可能性があれば、十分かもしれないわ」


丁寧に取出し、破損した部品も含めて綺麗にビアンカはそれらを並べていく。

少し重たい内容に、どんよりとした空気になったため、それを断ち切ろうとしてだろうか、単純な思い付きだろうか。レオナルドが軽い口調で、素朴な疑問を投げかけてきた。


「……そういえば、どうして、これは折れてしまったのだ?」


老朽化は以前から問題視はされてきたと聞いている。とはいえ、相当な技法で作り上げられていることが見て取れる魔道具が、どうしたら不自然に形状が歪み、飾りが折れるようなことになるのか、とレオナルドは特に悪気もなく無邪気に疑問を口にした。


「「…」」


ソフィアとディエゴは、それについては、レオナルドには伝えていなかったな、と思い至った。申し訳なさそうに落ち込むビアンカの姿を思い出し、どのように伝えようか、と思案したものの、結局、詳細を伝えてはいなかった。


あ…、という顔をした二人を見て、ビアンカは二人にも余計な気を使わせてしまってるなと苦笑した。



ガチャ



「壊してしまったんです。わたくしが…」


二人には既にその罪悪感を吐露した後である。道中は、ゆっくりと話す時間もなかったが、レオナルドにだけ伝えないのもどうだろうか、とビアンカはイーダの父親のこと、パオロのことも含めて順を追って説明しようと口を開いたのだが、…そんなビアンカの心情も無視して、扉を叩くこともせず不作法に扉を開けた者がいた。





「…」

「「「「「…」」」」」


部屋に入ってきたのは、夕餉は自室で反省を言い渡されて姿を見せていなかった若いエルフであった。一応、弁明を挟むと、叱責を受けて謝罪に訪れたらしいのだが、扉の前で色々と決心をつけるために考え込み、結果、勢いよく礼儀もそっちのけで、扉を開いてしまったようだ。




「…壊したって、神具を壊したのですか?」




謝罪に来たはずが、当初の目的は頭から抜け落ちて、その意を問いただそうとビアンカに迫ってくる。鼻息荒く近づいてくるエルフをディエゴとレオナルドが慌てて止めることになる。


「そこをどけっ!」

「どきません。何するつもりですか」

「落ち着いてください」


ディエゴとレオナルドに押しとどめながら喚き立てるエルフの姿に、どう収拾を付ければいいのだろうか、頭を抱えていると。長からの指示で、ビアンカを呼びに来た館の女性が、応援を呼んできてくれたようで、エルフの衛兵に若いエルフは羽交い絞めにされた。


間が悪い…と、ビアンカは顔を手で覆うのだった。

あらあら…、と起きてしまったことは仕方がないので、取りあえず気を確かに持って、と隣でソフィアが肩を叩いてくれた。






案内された長の待つ部屋。まずは、長は拘束されて連行されてきた身内の振る舞いを聞いて、若いエルフの脳天に本日三度目の鉄槌を食らわせた。


「度々、申し訳ない…」


不作法な身内の振る舞いに、詫びを入れられたが、ビアンカは、話をしようとしていた面子もいることだし、と仮面が壊れてしまった経緯を白状し懺悔する。

心配していた三人も同行することになった。


「……なんとも…、ですが、人を殴ったぐらいでは、ここまで壊れますまい」


仮面を破損した経緯を聞いた長は、ビアンカの魔力を封じた側の意図も理解はできたし、驚きもした。だが、差し出された仮面をじっくりと見分して、そう断言した。


「へっ?」


交渉がうまくいかないかも知れないとも思いつつ、覚悟して白状したつもりのビアンカは、長の言葉に間の抜けた声を出す。

その一方、傍らで経緯を聞いた三人は、静かにそれを見守りつつ生暖かい目でビアンカを見ていた。


(お父様を…殴りましたの?)

(親子喧嘩で、家宝で父親を殴るって…)

(ビアンカ様…)


しょんぼりしているビアンカの側に神妙な顔で立っていた三人だったが、何ともお転婆な一面を知って、驚いたり、呆れたり、笑いを堪えたり、ちょっと内心は複雑な状況になっていた。


「うーむ」

「えっ、そ、そうなのですか?!………そ、それで、そのっ、修復することはできるのでしょうか」

「…少し預からせていただいて、詳しく見させていただきたい。明晩、また話をすることでいかがでしょうか」

「よ、よろしくお願いしますっ!」


致命的に、というか止めを刺したのは、確かにビアンカだが、父親が言うように仮面の寿命も来ていたらしい。責任を追及されることを覚悟していたビアンカは、長の見立てを聞いて、ずっと鉛を飲み込んでいたようだった重苦しい心が少し解放され安堵した。

彼らに託すことし、その精査の結果を待つことになった。





(怒られなくてよかった…)




2021/7/23 誤植修正

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