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第20話 エルフの里




ビアンカたちは、突然の光と広々とした道の出現に言葉をなくす。ソフィアの指輪は、元の状態に戻り、眩い光は収まっていた。


「ソフィア…これは…」

「わたくしにも…どういうことか…」

「『精霊の加護を受けし者は、精霊の祝福を受けて道を開くことができる』とはこういうことか…」


ソフィアの隣にいたビアンカとマルコが先に言葉を取り戻した。マルコは、こうした事象について伝え聞いたことはあるようだった。


「マルコさん、それは…?」

「先祖から伝え聞いていた言葉です。私たちが森にたどり着けるのは、この言葉の意味の通り、精霊の加護を受けているからだと言われていますが、伝え聞いていた言葉の本当の意味が、今わかりました」


マルコが口にした言葉の意味は、一行の前に広がっていた。その言葉どおりに切り開かれた道。ソフィアほど精霊魔法に通じた者は近年、彼らの一族には生まれていなかったのだろう。ソフィアの同行、それがもたらした結果は、マルコの想像を超えたものだったようだ。




歩き慣れてないビアンカたちの昨日の疲れや負傷したパオロの体調も考慮し、ゆっくりと道を進んだ。昨日と違い掻き分ける叢もなく、負荷なく歩を進められる。歩き始めて程なくすると、並ぶ樹木は白くすらっとしたものに変わり、今までいた森とは違うところなのだと分かる。


「ここが、エルフの森なんですね」

「はい。エルフの里もこの白い木々に覆われてます。このまま道なりに進んでいけば、辿りつけるはずです。…それにしても、こんなに早く辿り着けるなんて、初めてのことです」


初めて足を踏み入れたビアンカ達は、今までと異なる森、ミラコーラでも見ることがない光景に驚いていたが、マルコは何度も訪れているのに初めて経験する道程に感じ入っている。あの光は、ソフィアがいたからこそ起きた事象なのだろう。


一刻もしない内に左右の道脇は徐々に高くなっていく。そこに生える木の根が見上げる程の高さになり、歩くビアンカたちの両脇は切り立った崖となる。緩やかなにカーブした道が終わり、真っすぐな道になると、前方に白い木々に囲まれた雪のように白く輝く立派な門構えが姿を表す。その圧倒的な存在感に息を呑む一同であったが、周囲を取り巻く気配に気を引き締める。


「隊長…」

「あぁ、囲まれてるな」


いつの間にか周囲をかなりの人数に囲まれていた。左右の崖の上とその崖に生える木の上に弓を構え矢をビアンカ達に向ける人影が多数取り囲んでいる。彼らはいつでも放てるように弓を引きビアンカ達を見据えていた。


「止まれ!」


頭上から鋭い敵愾心のこもった声が降ってくる。


「マルコです。先触れをお出しした通りに、参りました。お話ししていた方をお連れしただけございます。どうぞ、弓を下ろしてください」

「あなた方をお通しすることはできません」

「なっ、それはどういうことですか!」

「横様な手段で、我々の領域を侵しているのは、其方らであろう。大人しく我等に従うか、血を見るか好きな方を選べ」

「なっ!? 何かの誤解でございましょう。我等にそのような意思はございません」


マルコが対話を続けるが、彼らの強硬な態度は変わらない。崖の上に立っていた数人が道に降りてきて距離を詰めようとするため、此方としても自衛のために剣を構えることとなる。


「これは、どういうことだ?」

「私にもさっぱり…」


マルコと共に彼の一族ではない商会の人間も訪れることが有ると聞いている。今回は先触れで訪問することは彼らに伝えられており、許可も得ているとのことだった。二コラ隊長の問いに、マルコも事態が飲み込めずに、応えることができない。


そうしている間にも道の前方と後方から相手が迫ってくる。しかも頭上からは、弓が狙っている状況だ。剣呑な雰囲気を打破できずに、緊張が高まっていく。あわや双方が衝突する、というところで一筋の風が吹いた。誰かが魔法を使ったわけではないが、自然に吹くものでもない。


「へっ?」

「これは…」

「何だっ!?」

「か、風が…」


風はビアンカとソフィア、レオナルド、ディエゴの四人に優しく纏わりついてきた。そして、風に外套を煽られ、旗めくその隙間からは、オフランドにもらった揃いの首飾りが姿を見せる。


「待て、弓を下ろせ」


先陣を切って、こちらに詰め寄ってきていた一人がそれを見て、続く同胞を制止する。自らも敵意はないと示すために弓をしまい、ビアンカたちの方へ近づいてくる。


「ディエゴ、剣を納めろ。隊長、皆さんも」


大剣を構えたままのディエゴに警戒を解くように指示したのはレオナルド。自身も剣を鞘に納めて相手の出方をうかがう。


「…それを見せてもらえるか」

「これか?…それで何らかの疑念が晴れるのであれば、どうぞ」


互いに完全には警戒は解いていないため、男はレオナルドの間合いの手前で足を止め、レオナルドは首から外して、それを相手に放る。オルランドからもらった琥珀の首飾りは、ふわりと風に運ばれてゆっくりと男の手のひらの上に着地する。刺々しい空気を窘めるように、彼らの方に優しく風が舞うとフードが後ろに降りて、少しとがった耳を持つ整った容貌の美男子の姿が現れた。


「里に案内いたします」


態度を一転させたことに戸惑いはするものの喜ぶべき申し出だ。隊長とレオナルドは頷き合い。これを歓迎した。




門前までビアンカたちを先導してくれた男は、ビアンカたちよりもやや年上くらいに見えるが彼らは長命と聞く。初めて見る姿にチラリとビアンカは視線を送るが、一見しただけでは年のほどは分らない。門前には、壮年の男が静かに立っていた。ビアンカたちを目にすると恭しく歓迎の意を示してくれた。


「この者たちの無礼をお許しください。大変な失礼をいたしました。ようこそ遠路はるばるお越しくださいました。我らの里にご案内いたしましょう」


そう言うと閉ざされていた高い扉が開かれた。その先には、高く生い茂る白い木々と白亜の建物が並ぶ幻想的な集落が広がっていた。高い木に覆われていて空は隙間から僅かに除く程度だ。


「わぁ…、ここがエルフの里…」

「美しいですわね…」


思わずといった風に、あちらこちらから感嘆の声が上がる。ビアンカたちが通って来た薄暗かった森とは違い、差し込む陽の光は多くはないが、白い木が照らされ木が俄かに自ら輝いているように見える。里の中は、全く薄暗さを感じることはない。そして、一同の目を引いたのは、里の中心にある樹齢数百年を超すのではないかと思しき樹木だった。ひと際、大きな存在感を放っている。




こうしてビアンカ達は、一悶着あったものの目的地であったエルフの住まう土地に足を踏み入れることが叶った。




2021/7/23 誤植修正

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