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第11話 王宮と顔合わせ




今回の調査隊の話、同行する騎士団の責任者と公爵家、侯爵家、伯爵家、商会の関係者が一堂に会するにあたって、選ばれたのは王宮の一室だった。


「お父様、わたくし王宮に来るような事態になるとは思ってませんでしたの、変じゃないかしら」

「大丈夫だ。今日は、顔合わせだけだ。私もいるのだから、そんなに緊張しなくてもいい。……もっと、楽にしなさい。顔が引きつってるぞ」


縁がなかった王宮に父親と来る過程で、ビアンカは自分が起こした事態を実感していた。近づいてくる王宮の姿に、本当に国家を巻き込むような事態となっていること、そして、意味がないと思っていたことには意味があり、お伽噺と思っていた聖女の力や魔王の存在が実在していたのだ、と否応なく突きつけられた。

父親に指摘されるも相変わらず顔を引きつらせ、胃をさすりながら目的の部屋に向かっていると、ビアンカは前からやってきた男性に声を掛けられた。


「おや、お嬢さん」

「えっ?」

「今日は、素敵なイヤリングつけていないんだね」


突然、話しかけてくるとは無礼な、と父が俄かに顔を顰めるが、王宮を単独で闊歩している相手が誰だか分らず黙認する。ビアンカは声を掛けてきた人物を見て、何処かで見たことがあるような気がした。そして、「イヤリング」という言葉からカーニバルでジェラードを売っていた店員だと思い至る。


「あ、カーニバルの時の…」

「旅の支度には、力になれると思うよ。是非、店にお越しくださいな」


男は、それだけ言って通り過ぎていった。


「知り合いか?」

「ええっと、カーニバルの時にお店を出されていた方なのですが…」


そうだ出会ったのはカーニバルの時で、仮面を外していないのに、どうして自分だと分かったのだろうか。人違い…、とは思えない。ただ、王宮に出入りできるような立場なのだろう。気にはなったが、遅れてはまずいと、曖昧に父に答えると目的地に足を進めることにする。父はというと、「旅」と口にしたことが気になった。関係者だろうか。




長い回廊を進むビアンカの左手には広々とした中庭が見える。季節の草花が咲き誇り、何処を切り取って見ても来訪者の目を楽しませられるよう見事に整えられていた。だが、歩きながら父が語ってくれた話は、ビアンカを少し落胆させる。


「そういえば、レオナルド様がおっしゃていたという凄腕の剣士というのは、どうも見つかっていないようだ」

「そう、ですか」


学院で話をしていて漸く思い至ったのは、道中にカーニバルの時のような危険もありうるのだということ。そんな時期にでてきた有力な同行者候補だったが、そう上手くはいかないようだ。


「エルフとは、歴史的に色々あったから、大々的な騎士団の派遣は難しい。今日、対面する者たちと僅かな騎士団から選抜されえた隊員が、恐らく同行者の全てとなるだろう」

「そうですか…」






父が言った通り、一室に揃ったのは、レオナルドとソフィア、そしてルカリア商会長であるジュリアの父を除くと他、五名のみだった。レオナルドの父であるイレーヴェ公爵、ソフィアの父であるセサリーニ侯爵、騎士団からは今回派遣する隊の隊長、護衛として同行する冒険者が二名。年嵩のあるアルミノと名乗る冒険者から一歩引いて控える若い男はディエゴと名乗った。


今回は、学院でのレオナルドとソフィアとの茶会とは違い、父にあらかじめ聞かされていたことを確認するのみで、本当に顔合わせだけの場となった。無事に終わりそうだと気を緩めかけたビアンカだったが、その後、差し込まれた話題がそうさせてくれなかった。


「結局、件の人材探しは不発に終わったということか」

「先日のカーニバルの水竜を仕留めたという剣士か。そういえば、レオナルド様、ソフィア様も近くにおられたと聞きましたが、そうなのですか?」


アルミノが発言すると、隊長がレオナルドとソフィアに声を掛ける。「カーニバル」「水竜」…おや、と引っ掛かりを覚えたのは、ビアンカだった。


「ええ、姿は確認できませんでしたが、遠目に水竜の禍々しい気配が絶たれたのは確認いたしました。矢が射られる前に、水竜をほぼ無力化していたのは、先に刺されたという剣でしょう」


ビアンカはあの時、地面に投げ出された後に飛来した矢が水竜に突き刺さったのを思い出す。そして、その直前に手に取った剣を水竜に突き刺したのはビアンカだ。


「ディエゴ、お前が一番近くにいたのだろう? 姿を見なかったのか? その腕の怪我もその時に負ったといっていたよな?」


年嵩の冒険者が、「ディエゴ」と口にして、ビアンカはあの時、駆け寄ってきたレオナルドが口にした名もそうだったのではないか、と遅まきながらに気付く。怪我と言われて彼が手を当てた腕の位置は、あの時の彼が血を流していた腕と同じく右腕だった。

先日のレオナルド達との会話では、凄腕の剣士らしいと耳にしたため、完全に他人事だと思っていた。


「眼に剣を突き刺した人物は、どんな人物だったのか分らないのか?」


無関係だと思っていた話の当事者が、まさかの自分だったとは、想像だにしていなかった事態に焦る。ディエゴからチラリと視線を向けられ、あの時ビアンカはディエゴに素顔を晒したことを思い出す。彼は短い接触だったにも関わらず、あの場にいたのがビアンカだと気づいているのだろう。


ビアンカは、どうすることも出来ず、ディエゴの口から自分の名前が出るのを予測し、目を閉じて、その瞬間を待つ。




「いえ、仮装していましたし、すぐにその場から去ってしまったので、姿をはっきりとは見ていないのです」

「…!」


どうやら素顔を見られたのは一瞬だったため、ディエゴは、ビアンカのことを覚えていないようだ。胸をなでおろしたビアンカだったが、ディエゴは進む会話の途中もそれとなくビアンカの方に視線を送っていた。






正体が分らぬ剣士の存在は、引き続き探すことになったが、本日のところは、お開きとなった。足早にこの場を去りたかったビアンカだったが、父親を含む大人たちは、少し話があると席を外してしまった。




「お疲れさまでした。ビアンカさん」

「ソフィア様、お疲れさまでした」

「ビアンカ嬢、父上たちはそう時間がかからないようだから、少し此処で待とう。ディエゴのことも紹介したい」

「わたくしこの後、予定がありますので、先に失礼させていただきます。また、ゆっくり別の機会にお話ししましょう」

「ソフィアは、先に帰るから、私は彼女を城門まで見送ってくる。ディエゴ、給仕には伝えておくから、ビアンカ嬢を頼む」


ビアンカの動揺を他所に、あれよあれよと話が進み、何故だか、ディエゴと二人でこの場に残されることとなってしまった。ソフィアと違い、別の迎えを用意している訳でもなく、この場で待つしかできないビアンカは、固まった笑顔で二人を見送るのだった。




「ビアンカ様」

「は、はい!」

「違っていたら申し訳ないのですが、その…カーニバルの日、水竜と出くわす体験をされませんでした?」

「…」


貴族としていかがなものかとも思うが、ビアンカは、嘘をつくのが上手な方ではない。そして、予想外の事態にも決して強くはなかった。直球で来た質問を躱すこともできず、無言で目を泳がせる。


「っくく、素直なお人ですね。大勢の場で話をするのは憚られましたので、こうして直接お伺いできて、私としては都合がよかったのですが、そのようなお顔をされると、虐めているようで困りましたね」

「…」

「近いうちに、レオナルドと共に、街に出掛けるんですが、その際、ご一緒いただけませんでしょうか。お迎えにあがりますので、その道中、少し二人でお話しする時間をいただきたい」




すぐにレオナルドか大人たちが戻ってくるかもしれない状況で、ビアンカに否と答えることはできなかった。





2021/6/30 誤記修正

2021/7/23 誤植修正

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