タングステン合金エルフ ~それは森の抑止力が変な方向に働いた結果なんか生まれた哀しきMonster……
「ひゃっはあああ!! 焼け!! 燃やせ!! エルフの村は燃やせ! 女のエルフは殺すなよ~? ぎゃっはっは!!」
帝国第三辺境軍司令のダンバスは目の前の光景で歓喜に震えていた。
樹齢何千年という巨大な神樹の中をくり抜いて作られている、エルフの村が、街が燃えている。
エルフの戦士が弓で抵抗するが、銃によって射殺された。女エルフが帝国軍の兵士に囚われ、子供達は泣き叫んでいる。
それはこの大陸各地で見られる光景だった。
帝国は科学力、技術力、工業力を駆使した最新兵器で、その領土を広げていた。
数多の小国を飲み込んだ帝国が最後に残したのが、このエレフシア大森林国だ。最後まで帝国に反抗的だったエルフの国をあえて残していたのは、単純に全力で潰したいという帝国のエゴだろう。
大陸制覇。その偉業の最終ページに自分の名前を刻めると思うとダンバスは嬉しくてたまらなかった。
今、目の前で燃えているのはエレフシア大森林国の首都だ。もはやあとはエルフの王族を捕らえるだけだ。
「王族の城から王子が逃げ出しました!」
「なにぃ? 追うぞ! 奥には何がある? 言え!」
ダンバスの前には、拷問されて酷い傷を負ったエルフの賢者らしき老人が倒れていた。
「あそこに……手を出してはならぬ……あそこは我らですら……禁忌とする土地……行ってはなら――ぐはっ!」
老人は必死にまくしたてるが、ダンバスは持っていた拳銃でその額を打ち抜いた。
「銃があれば、火があれば、我らは無敵だ!! お前ら行くぞ! 進軍だ! 燃やせ! 壊せ! 全てを灰燼にせよ!!」
ダンバスは意気揚々と部隊を引き連れて、森の最奥へと進んだのだった。
☆☆☆
「もはやこれまでです……もうこの森は、この国は……おしまいだ」
エレフシア大森林国の王子、ウォルは森の精霊フラムに導かれるように森の奥へと逃げていた。
父も母も妹も全員死んだ。残ったのは自分だけだ。家臣達によって辛うじて逃げ出せたウォルは普段から話相手をしてくれていたフラムの説得で、禁忌の地と呼ばれる場所を目指していた。
身体中火傷だらけで、今にも気絶しそうなほどの痛みがウォルを襲う。
「フラム……僕はもう……」
「ウォル……あと少しです……あともうちょいいけば……」
「もう、歩けない……」
「頑張ってください! そこまで行けば……帝国軍を追い返せます! そう……禁忌の力で……」
「本当にそんな事が?」
「もちろんです! 森の抑止力が働き始めています……あとは、依り代だけ……」
「依り代?」
「なんでもありません! さあ走って下さい!!」
どれほど走ったかウォルには分からなかった。もう目の前の光景がぼやける。その場所は緑ではなく灰色の柱が立っている場所で、森の匂いがしない……。
「着きました!! ウォル!! さあ詠唱して!“ジルコニウムアルミニウムマンガン――タングステ~ン!!”」
フラムの言うままにやけくそでウォルは詠唱した。すると――。
☆☆☆
「進め! 燃やせ! 潰せ!!」
最新の兵器である戦車の上に仁王立ちするダンバスが機嫌良く森をなぎ倒し進んでいく。
「ダンバス司令官!! 前方に妙な場所が!」
「あん? 全部燃やせ、潰せって言っているだろ?」
「いえ、それが……その……」
「我自ら鉄槌を崩してやろう!」
偵察部隊の通信を無視してダンバスが森を進む。
すると、突然森が開けた。
「あん? こんな場所情報になかったぞ? 偵察部隊は何をやっているんだ?」
そこは、なんというか灰色の空間だった。ところどころに金属質な光沢があり、帝都にすらないほどの高層建築がそれこそ森のように立っていた。目の前には道路が走っており、なぜかその真ん中に、プールがあった。
「なん……だ? ここは」
ダンバスの声に、答える声があった。
「ここは……そう……コンクリートJungle……悲しみのOcean……怒れるForest……」
「誰だ!?」
ダンバスが銃を構えた。
すると、目の前にあったプールの底が轟音と共に割れ、水が落ちていく。そしてその下から床がせり上がってくる。
そこには、一人のエルフが立っていた。見た事も無い材質で出来た巨大な鎧のような物を身に付けており、背には円筒形の部品が二つ付いた、四角い機械を背負っていた。
「その顔!! 貴様がウォル王子か! ははは、観念して出てきたか……だが、残念ながら男のエルフはいらない! 死ね!!」
ダンバスが拳銃を撃った。その銃弾は見事ウォルへと命中したかに見えた。
しかし、カンッ、という軽い音と共に銃弾が弾かれた。
「……? 外れたか? 死ね! 死ね! 死ね!」
拳銃を乱射するダンバスだったが、その銃弾はことごとくウォルの鎧に弾かれた。
「馬鹿な……防弾の鎧だと? そんな物を作る技術がエルフにあるはずがない!! くそ、おい、砲弾を撃て!!」
「はっ!」
銃弾が切れたダンバスは乗っていた戦車の射手に指示を出した。砲塔がゆっくりと動き、ウォルへと向けられる。
「無意味なAction……」
「ファイア!!」
ダンバスの号令と共に砲弾が射出。一瞬でウォルへと迫ったその砲弾に対してウォルがしたのは、右手を広げて差し出すだけだった。砲弾の爆発によってダンバスの視界が不良になる。
「ば……か……な」
煙が晴れると、そこには一歩たりとも動いていないウォルの姿があった。その右手にはひしゃげた砲弾が握られている。
「ありえない……ありえないありえないありえないありえない!! 砲弾を素手で受けられる奴がいるか!! 全車発車用意――ファイア!!」
ダンバスの率いる戦車部隊が一斉に砲弾を放った。轟音が鳴りひびき、砲弾がウォルへと殺到する。
爆発が起こり、更に焼夷弾が混じっていたのか、火炎が巻き起こった。
「ふははは!! 馬鹿め!! どんな手品を使ったが知らんが、これで奴はミンチになって灰すらも残っていないだろうさ!」
ダンバスは熱風で肌が焼けるのも構わず目の前の光景を凝視した。
灼熱に炙られた地面から陽炎がゆらめいている。炎と黒煙舞うそこはまさに地獄と形容するに相応しい場所だった。
そんな地獄から――歩み出てくる者がいた。
「……うそだ……これはうそだ。夢だ。幻だ。こんなこと――起こるわけがない!!」
ダンバスの叫びと共に現れたのは、顔を金属製のマスクで覆ったウォルだった。複雑な機巧でそのマスクは自動的に首元に収まっていく。
「では、次は僕のTurnだ」
たった一歩。ウォルはその一歩で背負っている機械から火を噴出させて空を飛び、一瞬でダンバスの目の前に降りると右手を振り上げた。
「ひ、ひぃ!!」
ウォルの右手の手甲が変化していく。その巨大な機巧の先に太い金属製の杭が装着された。
「Pile――Bunker‼」
ウォルがそれを戦車へと叩き付けると同時、機巧によって杭が打ち出された。
バガンッ!! という轟音と共に杭がいとも容易く戦車の装甲を貫通し、内部で爆破。
戦車もろともダンバスが吹き飛んだ。
「……撃てぇ!!!」
それを見た他の戦車や兵士が銃や砲弾を撃つが、全てウォルの鎧に弾かれた。
「これが……抑止力のPower……世界を滅ぼすRain……」
ウォルの鎧の肩がパカリと開くと、そこから何十という小型の円筒状の筒が噴出。それは煙の尾を引きながら、戦車や兵士へと飛んでいき、そして爆破した。
爆音の多重奏が鳴り響く。
「これが破壊のMemory……悲しみのRhapsody……」
破壊の跡にはウォルを除き、残骸以外何も残っていなかった。
「やったねウォル!! さあ、森の外に展開している帝国軍にもタングステンの鉄槌を!!」
「神のSpear……起動」
ウォルが右手を空へと掲げる。その手のひらから赤い光線が天高く登っていった。
☆☆☆
奇跡的にその時、帝国軍の展開する陣地から離れた位置を飛んでいた偵察機パイロットはこの時の事をこう証言したという。
「空から……空から……燃える槍が降ってきたんだ!」
上空から発せられる異音に気付いた帝国軍の兵士達は皆一斉に空を見上げたという。すると上空から、真っ赤に燃えた細長い円筒状の物体が降ってきていた。
その降ってくる物のあまりの巨大さに、誰も反応が出来なかった。
「なんだよ……あれ……」
それは轟音を上げ、大地に刺さった瞬間に地面を大きく揺らす。次の瞬間に着弾地点を中心に衝撃波が地面を削りながら円状に広がった。
その破壊の円から逃れられた生物は何もいなかった。
こうして一瞬で、帝国第三辺境軍は全滅したのだった。
☆☆☆
「素晴らしい!! 森の抑止力×旧世界の遺物という混ぜるな危険的なサムシングのおかげで、ウォルは最強だ!」
森の精霊フラムが喜びの声を上げた。
「……僕……とんでもない事をしたんじゃ……」
タングステン合金製のパワードアーマーを着たままウォルは正気に戻ったのだった。
「これが、世界の選択だよ!! さあウォル! エルフが虐げられる時代は終わった! これから君達が人間の村を! 街を! 国を! 燃やす番だ! 世界中に捕らわれた同胞達を救い、この星を再び支配しよう!」
こうして、森の抑止力という良く分からないナニカと滅びた旧世界の遺産の力を身に付けたウォルの復讐が始まったのだった。
後世の歴史書にはこう書かれている。
“彼こそがタングステン合金エルフの始祖だと”
ノリで書いた。正直すまなかったと思っている。Sorry……




