変なの
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太陽はちょうど天辺あたり、小谷城から太鼓の音が遠く響いてくるのを耳が拾う。
―おなかすいた
お昼頃なのだろうか、お腹の虫はぐぎゅうと鳴り、姉川に掛かる橋のほとりでぼうっと景色を眺めていたたくみは、お腹をさすって気を紛らわせているところだ。
自分の知っている川の様子とは少し違うが、乾いた風が心地よく吹き抜ければ懐かしいものがこみ上げる。位置的にもここが姉川だとたくみはわかっていて、心穏やかな時間を過ごしていた。
それに、堤防には川男がいてやっぱり二人で静かに座って話をしている。
「川男、こんにちは!」
堤防の上から手を振ったが、二人は見事に一致した動きでたくみへ首を向け……
「あれ?」
じっと見上げていたと思ったら、会釈をしてくれると思っていたのに、会話へ戻っていってしまった。
「変なの」
口を尖らせ、川岸まで降りた。
川へ石を投げて遊び始めれば、水面に落ちた石は、じゃぼん、たぷん、だぶぉん、と音を出し。それは一度として同じものはなく、車も人も通らない、鳥の声と川の音しかしない空間ではとても楽しくて賑やかな音に感じられた。
次の石を取ろうといい気分で下を向いた刹那。視界の隅に見つけてしまった、川べりに生えたガマのずっと向こうで、何かを囲んでせせら笑っている、色とりどりの河童を。
しかも何かを小突いたり蹴ったりしているように見える。
「弱いものいじめ、いけない」
たくみは口の中で呟いて、川原を駆け出した。
「かっぱー! 弱いものいじめはゆるさーん!」
遠くから勢いよく駆けて来る子供を見つけた河童は、顔を見合わせて、にや、と笑った。
「鴨が葱背負って来たな」
「俺らに敵うと思ってんのか?」
「久々の子供の尻子玉、考えただけで美味いぜ」
うずくまる黒色の河童へ最後の見舞いとばかりに一人ずつ蹴りを入れ、たくみのほうへ歩き出した。
「よぉ、お嬢ちゃん、俺らに用かい」
紫色の河童が顎を上げ気味に言うと、たくみは河童の前まで走ってきて足を止めた。
「あの黒い河童を大勢でいじめてたでしょ、謝りなよっ」
ビシッと言い返したたくみに、河童は目を丸くした。
「俺らを見て怖がらねぇのか、間抜けな餓鬼だ」
誰ともなくせせら笑い、冷たい視線で見下ろされる。
「河童怖くないもん、お友達だから」
たくみが言うと、河童は堪えきれないといった様子で吹き出した。
「あっはっはっはっは、こんな馬鹿、見たことねぇ!」
高笑いする紫の河童に腕を掴まれ、
「手を離して」
毅然と見上げたが。
「そう怖い顔すんなよ、なぁ……ちょっと遊ぼうぜ」
紫色の河童はひどく冷めた目で笑った。
「何して遊ぶの?」
「とってもいいことさ」
「それ、いいことっていう目じゃない」
「そうか? 俺は元々こういう顔なのさ」
「ああー……そうなんだ、ごめんね」
「気にすんな、容姿を言われるのは慣れてるからよ」
すると、黒い河童が叫んだ。
「やめろ、子供を連れて行くなっ」
うずくまっていた黒色の河童が痛みを堪えて起き上がろうとするが、河童達は見向きもせず。
「いこーぜ」
そう言って、たくみを連れて姉川へ飛び込んだ。
「やめろぉおおおー!」
川に飛び込む寸前、たくみの耳は黒色の河童の叫び声を拾っていた。





