首だけになった経緯
「どうしたの、こんな夜に」
たくみが問うと、金網が張ってある蔵の窓から、淡い光が落ちてきた。
「たくみ、」
「きちゃった」
可愛らしい声で登場したのは蓑火だった。
「みの、のび!」
慌ててリュックからランプを出し、蓑火を入れてやる。
「らんぷ」
「さいこー」
「来てくれて嬉しいよ、真っ暗だったから」
「おうみ坊主」
「連れてきてくれた」
「おうみ坊主が?」
「たくみのとこ」
「行こうって」
「そうだったの」
蓑火の話を聞き、たくみはおうみ坊主へ首を向けた。
「遊びに来てくれてありがとう、賑やかになって嬉しいよ」
するとおうみ坊主は全身をぶるるんと震わせた。それは照れているように……見えなくもない。
そしてたくみの隣までやって来て、寄り添ってくれた。真っ黒くて透けているのに、表面はすべすべで柔らかくて妙に暖かくて、素晴らしい肌触りだった。
今日の釣りの話で盛り上がっていると、青い河童がやって来て、手土産にきゅうりを持ってきてくれた。
次に現れたのは川男で、やはり二人でやって来た。見事に揃った動きで隅の方に腰を下ろし、黙って座っている。
「でさ、何で弥一は首だけになったんだ」
河童が弥一に問う。
「おぅ、聞いて驚くな。俺ぁ野村の合戦で首を取られたのよ」
自慢げに話したが、たくみ以外の誰も驚きはしなかった。それでも弥一はまるで武勇伝の様に話を続けた。
「元亀元年六月二十八日。蒸し暑い日だったよ。蝉がうるさく鳴いて、蚊が多くてよ。ほんと、不快な日だった。一番槍をあげて弥一の名を轟かせようと考えていた俺は、ばったばったと浅井の兵を倒した。薙ぎ払い、突き刺し、叩き割った。誰も俺を止められはしねぇ! って位の気込みで突き進んだ。そしたらよ、俺の気迫に負けたんだな、敵が背中見せて逃げて行きやがる。根性のねぇ野郎の寄せ集めか、浅井は! ってんで、丘のほうへ逃げてゆく奴等を追っかけたんだ」
すると、弥一は今までの勢いを無くし。まつげを伏せた。
「だが、それは罠だった。太鼓の音が轟いた次の瞬間、丘の向こうから矢が……こっちは風下で、それはもぅ、雨みたいだったよ。欲かいたばっかりに深追いしすぎたんだ。気がついた時はもう遅かった。そして俺は、地面に倒れて……」
そしてぱっとまつげを上げ。
「で、いまだに体が見つからねぇってわけさ」
おどけて言うと、ハッハッハと笑い飛ばした。
「何だ、自業自得かよ」
河童は溜め息混じりに呆れていた。





