圭ちゃんの麦藁帽子
屋台が開店する少し前、たくみは玄関の前でシスターに頭から覗き込まれていた。
「たくみちゃんはこれを売って来なさい」
手渡されたのはかごには、昨日作ったクッキーが袋詰めされてこんもり入っている。
「一つ百円です、つり銭はありませんから、気をつけなさい。売り切るまで帰って来てはいけませんよ」
「……はぃ」
午後から神父に誘われてみんなで釣りに行く事になっているのだが。このクッキーの分量を見ると、今日一杯かかりそうだった。
とすると、シスターは予定を知っていてクッキーを多く作ったのだろうとたくみは思った。毎年クッキーを作っている兄弟が今年は分量が多いと話していたから、間違いないだろう。
陰湿な嫌がらせは今に始まったことでなは無いが、あからさま過ぎて途端に心が重たくなった。けれど、やるしかない。
一人決意をして門を出ようとすると、屋台には通行人が集まっていて、兄弟たちは忙しそうに接客に当たっていた。そんな中、圭はたくみを見つけて駆け寄ってきた。
「どこ行くんだ、かご持って」
「クッキー売り」
「……どこで?」
圭は静かに聞くが、
「決めてない」
とたくみは答えた。
少し考えていた圭だったが、自分が被っていた麦藁帽子をたくみに被せた。それは濃い目の色の藁で編まれ、被る部分とつばのふちには水色のリボンが巻いてある。
「今日は暑いから、被っていけよ。その帽子、俺には小さくなっちゃったから、たくみにやるよ」
「ありがとう」
「姉川のほう行ってもあんまり人がいないから、長浜の駅の方へ行くといいよ。知ってる家に声かけてみるのもいいかもな。気をつけて行けよ」
「うん、圭ちゃんも頑張ってね、帽子ありがとう」
圭と別れて園を出たたくみは、圭に貰った麦藁帽子のつばにそっと触れ、くすぐったい心持ちで微笑んだ。
「圭ちゃん優しいなぁ」





