甘いものきゅん
兄弟たちは調理台に用意されたレモン、蜂蜜、小麦粉の袋、卵、砂糖、板チョコ、ナッツ、バターの箱などを囲むようにしてまじまじと眺めて言う。
「眺めていても終わらない、やるか」
年上の男の子の合図で、兄弟たちは調理に取り掛かった。お兄さんお姉さんは手馴れたもので、オーブンを予熱し、助け合って作業を進めていく。
「これは、こうやって割るんだ」
圭と一緒に板チョコを割り、ボウルに放り込んでゆく。ある程度溜まった頃、圭は板チョコを板の目通りに割って、小さなボウルに入れて隣の兄弟に渡した。すると兄弟は黙ってボウルを受け取り、中に入っている板チョコを一つ摘んで口に放り込む。そのボウルをまた隣へと渡し、みんなに行き渡ったボウルが巡りめぐって返って来ると、その中には二つ板チョコが入っていた。
「たくみのぶん」
調理室にシスターはいなかったが、圭は小さな声でボウルから板チョコを取り出して一つをたくみに渡し、もうひとつを自分の分を口に放り込んだ。
「ありがとう」
たくみも小さな声で言うと、チョコを受け取って口へ入れた。園に来てからというもの、ハロウィンとシスターのいないキャンプの時位しか口に出来ないチョコレートをゆっくり口で溶かして堪能すれば、顎のあたりがきゅっと痛んだ。
―甘いものキュンだ
甘いものを口にしたとき、口の中にきゅっと痛みが走る事を、たくみは密かにそう呼んでいた。
幸せな痛みを噛み締めて、黙々とクッキー作りは進んでいった。
翌日、チャペルの前には屋台が出され、兄弟たち手作りの看板が掲げられていた。
“レモネード・クッキー屋”
ダンボールにクレヨンと絵の具でカラフルに描かれている。屋台のスカートの部分にはレモンやクッキー、グラスに注がれたレモネードの絵が貼ってある。それはまるで本物みたいで通行人の目を引いた。
「まるで本物みたいですね」
「たくみの描いた絵、ほんと上手いな」
神父や兄弟たちは心から感心していたが、シスターだけは褒め言葉を口にしなかった。





