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国友鉄砲鍛冶衆の娘  作者: 米村ひお
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雄螺子雌螺子

 

 *


 たくみは五歳を迎え、一本たたらの鍛冶講座は、より内容の濃いものになっていた。


「張立てはまず何から取り掛かる」


 “すぐちと同じ径の鉄の棒を作る”


「それを何ていうんだ」


 “まきしの”


「それから何を用意する」


 “かわらがねと、かずら用の板”


「そうだな、かずら用の板を忘れちゃいけねぇ。で、その瓦金はどうやって作る」


 “鉄を、むらがないように、叩いて鍛えて、四角い板にする”


「その瓦金をどうするんだったか」


 “マキシノを芯にして筒状にたたく。あらまき”


「そう、筒を作るのが荒巻だ。で、筒が出来たらどうするんだ」


 “幅一寸、瓦金と同じ厚みのかずらを筒に巻いて叩く”


「それは何て言う作業だ」


 “はりまき。で、表面滑らか仕上げの巣直し、筒の内側をやする錐入れ、お尻を螺子で止めて、先目当、前目当をつけて、筒は出来上がり”


「なかなかいいじゃないか、手順は大体覚えたな」


 一本たたらはにかっと笑ってその場で一回転した。


「じゃあ今日は尾螺子についてだ。鉄砲作りで何が一番苦労したかっていうと、この螺子だ。今じゃありふれた螺子だが、当時鉄砲が伝来するまで日ノ本には無い技術だったんだ。なぁ、螺子はどうやって作るか知ってるか」


 “ううん、わからない”


「雄螺子を作るのは案外簡単だ。問題は雌の方。今はタップという道具を使って、当時より断然簡単に螺子山を立てる事が出来るようになった。だがこれもまだ技術が必要だ。この時代になっても難しいんだから、螺子ってのは奥が深い」


 “ねじやまって?”


「螺子山ってのは螺子に彫られた溝や、螺子を受ける下の穴に彫られた溝のことさ」


 “ほほぅ、ねじのみぞ”


「螺子を入れる穴の中にどうやって螺子山を彫るのか……さっきも話したがこれが一番の苦労だった。そんなる日、鍛冶師の次郎助が欠けている刃先の刀でどういうわけか大根をくりぬいたんだ。そしたらあら不思議、大根の内側に溝が出来てたってわけさ。それを糸口にして雌螺子の仕組みが解明されたんだ。大根彫った次郎助のお手柄だなぁ。ま、他にも鍛冶の火づくりや細かい部分は実際に作ってみないと教えるのは難しい。鍛冶屋に弟子入りするのが一番いいんだがなぁ。知識だけ持っていてもつまらないよな」


 黙って聞いていたたくみは、ぽそっと言った。


「……何で大根彫ったのかな」


「んー……鉄を彫ると手間も時間も材料費もかかるからな、掘りやすくてその辺にいくらでもある大根を彫ったんだろうよ」


 “あぁ、研究するのに大根彫ったのか”


「料理するために大根彫らねぇだろ、何料理だよ」


 “彫ったあと、何か詰めて蒸すとか?”


「肉詰めて蒸したら美味そうだな」


 “うん、お腹すいてきた”


「よし、腹が減ったところで今日はこの辺にしとくか」


 “今日もありがとう、またね”


「おー、また来いよ」



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