しげとちょうろう
黙って聞いていたたくみは、天井を見上げたまま静かに問うた。
「あたし、長老とお友達?」
「そうだ。誰とだって、お前は仲良くなれる」
「いつお友達になったの?」
「とてもとても昔さ」
「私は昔を知らない、だって四歳だもん」
「そうだな、たくみはまだ四歳だ。だから、俺にもよくわからないんだ」
「どういうこと?」
「お前のにおいは間違いなくたくみの匂いだ。だが、俺とたくみが出会ってから何百年と経っている。当たり前だが、たくみは人だ、何百年と生きられない。なのに今、目の前にたくみがいる。しかも餓鬼の姿でだ。仏のいたずらとしか、思えない」
黙って聞いていたたくみは、しばらく黙り込んだ。おうみ坊主が挨拶してくれること、川男が挨拶してくれること、一本たたらが鍛冶を教えてくれること、弥一が優しく接してくれる、蓑火は旅と言っていた……そんな事をぼんやり思い出していた。
「ねぇ長老、人に見えないみんなが、前からあたしを知っているみたいに接してくれるのは……前からあたしを知っているから?」
「そういうことだな」
「みんなはあたしを知ってるのか……あたしは知らないのに」
「段々知っていけばいい。人の時は短いが、焦ることは無い」
「だね。あ、そういえば神父と長老はお友達なの?」
「しげか。あいつが餓鬼の頃から知っている。よく川男の隣に座って本を読んだり、川を眺めたりしていた。そうすると子供らがやって来て、いつもいつも囲まれていじめられていた。お化けが見えるから何とか、と言われていた……それが段々ひどくなっていってな、見るにみかねて助けてやることにした。河童らに子供を川へ引き込ませたんだ。端から子供は返してやるつもりでいたんだが、しげは泣いて河童らを引き止めたんだ。連れて行くなら僕を連れて行け、ってな」
「神父……かっこいい」
「ああ。それからしげはいじめられることは無くなった。だが、それ以降も堤防に座っている時間は長かったがな」
長老は片方の瞼を上げて、濁った瞳でたくみを覗き込んだ。
「たくみがしげのところへやって来たのは、何かの縁かもしれないな」
「そうかな?」
「年寄りの言うことは大体当たるものさ」





