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NAGAHAMA
***
北陸本線、長浜駅。
夏の終わりの午後、女に手を引かれて小さな足がホームに降り立った。
「次はバスに乗るのよ」
「バスだバスだぁ」
女が優しく話しかけると、おさげの子供は無邪気に喜んだ。
「ほら、この浅井線ね」
女は子供を抱くと、バス停の路線図をなぞってみせる。すると子供は、目を輝かせて指を追う。
「せんせ、バスのあとは?」
子供は女を先生と呼び、仰ぎ見れば。
「おしまいよ」
と、微笑む。
「新しいお家?」
「そう、新しいお家」
「もっと電車乗りたい」
「たくみちゃんが大きくなったら、たくさん乗れるわよ」
「大きくなるってどれくらい?」
「そうねぇ、先生くらいかな」
先生はニコッと笑って。それから通りに首を向けたのを、たくみは澄んだ瞳でじっと見上げていた。