ちょうろうとお楽しみ
数秒見詰め合っていると、テカテカの重たい瞼が持ち上がっていき、琥珀色の瞳がちらりと覗いた。だがその瞳は白く濁り、あまり良く見えていないらしかった。
「……おぉ、おお……なんと……!」
水かきの付いた手を前に出し、水かきの付いた足をのし、のし、と前に出してたくみへ近づいてくる。
「長老は体が少々不自由です、行ってお上げなさい」
神父が言うのなら、この大きな河童は怖くないのだろうとたくみは思った。そして長老の元へ駆けて行き、何かを探すように宙を漂う水かきの付いた大きな手を取った。
「私はここだよ」
ぬめっている冷たい手は、たくみの小さな手をぎゅっと握り。
「何と小さき手だ、だが、何と懐かしい匂いだろうか」
長老はたくみを腕の中へと包み込んでしまった。ぬるっとした感触は思いのほか柔らかく、思っていたよりも心地がいい。
「……たくみなのだな」
名前を当てられ、たくみは顔をあげた。
「私を知ってるの」
「ああ、知っている、知っているとも」
そして長老はたくみの頭を撫ぜ、それから。
「連れて行ってやろう、」
そう言って顔にぺたりと触れ、するりと顔面を撫ぜた。
「しげ、たくみを少し借りる」
長老は神父に言うと、
「あまり長くなりませんように」
神父はにこやかに答えた。
「行くぞ、たくみ」
「どこに?」
「お楽しみだ」
長老はたくみを腕に抱き、姉川に飛び込んだ。
それを見送った河童達は、
「ススミさまだ」
「お帰りになられたのか」
「それにしても小さかったが」
「人の時を凌駕したのか」
「さすがススミさまだ」
川面を眺めて話しているのを、神父はしっかり聞いていた。





