ちょうろう
「しげ、その子供はどうした」
睨みをきかせて青い河童は言う。
「去年の夏の終わりに園へやって来た子です」
神父は河童の雰囲気などまるで意に介していない様子でいつもの様に柔らかく答える。
「ほら、自己紹介を」
神父に促され、落ち着かない心持ちでたくみは挨拶をした。
「たくみ、四歳」
指で四を作って見せると、河童達は目ん玉ひん剥いてどよめいた。
「たくみといったか、」
「たくみだとよ」
「まさか、」
信じがたいと言った様子でざわついていると、姉川の水面がモコ、と浮き。その中から現れたのは色が真っ黒の、でっぷり太った、瞼が垂れ下がって前が見えているか分からない、体の大きな河童だった。
「長老様!」
桃色の河童に手を引かれて陸に上がった大きな河童に、今までたくみを睨んでいた河童達がひれ伏した。
「わざわざ呼び立てるとは、よほどの用なのだろうな」
重低音響く声で言ったあと、何かに気が付いたように鼻をすん、と動かして宙のにおいを嗅いだ。
「……懐かしいにおいだ」
そう言って、ゆっくりと首を神父のほうへ向けた。
「しげか。妙な匂いを持ってきたものだ」
そして次に、たくみに目が向けられたような気がして、たくみは重たそうな瞼をじっと見上げた。





