子供にはわかる、大人のエゴ。
門限を守らなかった罰としてベッドから降りてはいけない刑を言いつけられたたくみだったが、消灯時間になってもシスターは部屋を訪れず、風呂も入らない、歯も磨かない状態で眠った。
その翌朝、起床のチャイムが鳴ると部屋にシスターがやって来て、
「降りていいわ」
昨日と同じ調子で、至極不機嫌な雰囲気を醸して言い捨てていった。
昨日姉川で目一杯遊んだあと、圭がこっそり作ってきてくれた福神漬けのお結びと、飲み水しか口にしていないのだから、お腹に住んでいる虫が暴れまわるくらいの空腹だった。
いただきますの祈りのあと、すごい勢いで食べれば、お茶碗はすぐに空になってしまう。
「おかわりしてくるっ」
子供用の茶碗軽く一杯では全く足りず、お茶碗を手に勢いよく椅子から立ちあがれば、
「お待ちなさいっ」
シスターの鋭い声に、たくみは静止した。
シスターは食事を中断して立ち上がり、たくみの所まで歩いてくる。その顔は、目がつり上がって、口は一文字、明らかに怒りが滲んでいた。
「まァ、昨日の罰のあてつけをするなんて、何て意地の悪い子」
そう言ってたくみの前で足を止めた。
たくみには、シスターの言っている事がよくわからなかったが、意地の悪い子、というところだけは何となく分かった。自分が意地悪と決め付けられているのだと。
「お替りなんて、なんて卑しい事をするんでしょう!」
そう言って、奪うように茶碗を取り上げてしまう。
「ごはん足りないっ」
空腹は子供にとって死活問題だ。
本当に空腹のたくみは、本能的に言い返すと、
「言い返すなんてどういう了見なの! 私の話しを聞いていなかったのかしら! 頭は悪い上に可愛げも無いわ! いつも落ち着きなくうろうろしているから余計な体力を使っておなかが減るんです、もう少し落ち着いた態度で生活なさいっ、たくみちゃんの御飯は、もうありませんっ」
感情的に言いつけてたくみのお膳をがしっと掴むと。ぶんっ、と勢いよく背を向けて。シスターはたくみの膳を片付けて、自分の朝食を再会した。
静まり返る食堂で俯き気味に食事を続ける兄弟たち、不機嫌そうに食事を取るシスター。そんな様子を見渡して、たくみは体の横で拳を握り、食堂を出て行った。





