福神漬けおむすび
学校組が帰ってくるまでシスターの圧に耐えていた未就学組、帰ればシスターの圧が待っていると知っている学校組は、門限ぎりぎりまで遊んで今、駆け足で宿舎まで帰ってきたところだ。
一人、また一人、宿舎の玄関へ飛び込んでいき、たくみもあともう少しで玄関へ入れる、と思った瞬間。門から玄関まで敷いてあるレンガに躓いて、盛大に転んでしまった。他の子供達はたくみを通り過ぎ、我先にと玄関へ入ってゆく。その足音を、たくみは途方に暮れた心持ちで地面に転がって聞いた。
圭がたくみの不在に気がついたのは、玄関に飛び込んだ後。振り向けば、たくみが自力で起き上がるところだった。その足は擦り剥けて、血が滴っている。
「たくみ!」
駆け出そうとした圭の肩に、そっと置かれた手。酷く優しい威圧にぎくりとして、圭は止まった。恐る恐る見上げれば、やはり、シスターだった。
「圭君、手を洗っていらっしゃい」
とは言うが、シスターは圭を見ようとしない。転んで怪我をして膝から血を流すたくみを見つめていた。
「……はい、シスター」
こうなっては助けることは難しい。圭は仕方なく宿舎へと入っていった。
膝の怪我を洗い、消毒し、大きな絆創膏を貼ったのは、たくみ自身だった。
血の滲んだ絆創膏をぼうっと眺めるのはベッドの上。シスターに門限を守らなかった罰と言いつけられるまま、自分のベッドに座ること、かれこれ二時間は経ったろうか。他の皆は食堂では夕飯を食べているのだろう、カレーのいいにおいが漂ってきて、お腹が鳴った。
兄弟たちは風呂へ入り、歯を磨き、清潔なパジャマに身を包んでベッドへ入る頃。圭も部屋へ戻ってきて、ラップに包んだ丸いもの差し出した。
「腹減っただろ、おむすび作ってきた」
手渡されたおむすびは、生温かい。
「ありがとう」
福神漬けが混ぜてあるおむすびは、空腹に染み渡る。
「ゆっくり食べないと、喉に詰まるぞ」
「んぉんふみ、んいひぃ」
むしゃむしゃ食べるたくみを見て、圭はにこにこと笑っていた。





