死んでもわからないこと
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昨日の花見は楽しかったし、花見の間シスターはにこにこしていたのに。今日は朝からシスターが不機嫌だという事を、子供達はその佇まいだけで感じ取っていた。
顔色を窺いながら、粗相の無いように、支度を終えて学校組は出かけていった。
その夕方、学校組の子供達は宿舎へ帰ってきて宿題を済ませると、一斉に外へ出かけていった。学校から帰ってきて未就学児組が暗い顔をして折鶴を折っていれば、この状況から逃げ出すのが一番と思ったからだ。
子供たちが遊ぶ大きな部屋では、お昼御飯をこぼした罰として未就学組の兄弟が連帯責任で鶴を折っている。子供らしい笑顔は皆無、皆淀んだ顔をして無言で折り続けていた。沈黙は沼の底に沈んでいるようで、子供達の情操に悪影響を及ぼしている事は間違いない。
けれど一人だけ、それに負けない子供がいる。
「おわったぁ!」
元気に両手を挙げ、沼の底から皆を一瞬にして地上へ引き揚げたのは、たくみだった。
一瞬の歓喜に子供達の作業速度は格段に速くなり、終わった子は終わっていない子の作業を自主的に手伝い、間も無く折鶴の苦行は終わりを迎えた。
苦行を終えて片付けをしているところへ、圭がやって来た。
「たくみ、いくぞ」
にこにこ笑顔に誘われて、たくみも思わず笑みで返した。
「うん!」
どこへ行く、と聞かなくても。圭と一緒ならたくみは嬉しかった。
宿舎を飛び出して姉川まで走り。河川敷や堤防で圭たちと思い切り遊んだ。もちろん弥一も一緒だったし、灰色のしわしわも堤防に佇んでいる。
「あぁ、ちょっと休む」
肩で息をするたくみは、子供達から少し離れて、灰色のしわしわの隣で腰に下ろした。
灰色のしわしわは見事なシンクロでたくみへ首を向けて会釈をし、たくみも慣れた様子でこんにちはと笑いかけた。そのあと弥一が跳ねてやって来て、たくみの隣で首をおろした。
「休憩か?」
「うん、弥一も休憩?」
「たくみの体力にはかなわねぇよ。あぁ、堤防を転がるのはキツイな、首がやべぇ」
「楽しいね、堤防ごろごろと、追いかけっこ」
「おぅ、いい運動になるよ。何もしないと首が鈍っちまうからな」
「首が鈍るとどうなるの」
「体力が落ちて動けなくなっちまう……気がする」
言葉が尻すぼみになって、はたと首を傾げる弥一に、たくみは問う。
「死んでても、体力関係あるの」
この問いに、弥一は更に首の角度を深くした。
「それな。俺も今思った……」
「死んでも分からないこと、たくさんあるんだね」
「あるな。……結構ある、かなり。いや……ほとんどか?」
顔を見合わせれば、互いの表現しがたい表情に、ブふっと吹き出して肩をすくめた。





