凍らせた味噌汁
生まれも育ちも静岡のたくみは、雪を見たことが無い。
―雪、どんな感じなのかな
と思った瞬間、思い出した。きゃんぷの時に見た夢を。そういえば、自分は雪をよく知っていた……そして、蓑火が一緒にいて、リュックを背負って、でこぼこ道を歩いていた。どこかへ行こうとしていたことは間違いない。
―旅……!
突然、点と点が線で繋がったような気がした。そういえば蓑火が言っていた、楽しい旅と。
―……でも、夢だもんなぁ
夢の中では空だって飛べるのだ、やけに現実的な夢ではあったが、にわかに信じられず、そこで考えるのをやめた。
一本たたらの鍛冶講座は今日も興味深くて楽しかった。火床に使う炭にもこだわりがあると話していた。鍛冶屋炭という炭で、近隣の山あいの集落で炭を作っていたと聞いた。
職人のこだわりにまだ胸が感動している、ミュージアムの帰り道。
たくみの手をひく圭は、白い息をくゆらせて言う。
「じっと展示物を見ているだけで楽しいのか?」
純粋に不思議に思っている問いに、
「楽しいよ」
と素直に答えた。
「そういうもんか?」
圭は更に不思議そうな声を出したあと、ふと、空に首を向けた。
「雪だ、」
圭の声に導かれるように、たくみも空に首を向ける。濃い灰色の雲に覆われた静かな空から、ひらひらと白いものが落ちてくる。
「……これが雪」
一瞬で小さい胸は感動で一杯だ。生まれて初めて雪を見た、その感動は計り知れない。
あとからあとから儚く落ちてくる雪を見上げていると、前方に気配を感じ取った。首を戻すと、前から歩いてくる人を見つけた。圭と同じくらいの背丈の子供と、手を繋いで歩く髪の長い女の人だった。二人ともこの季節にそぐわない薄手の服を着ていた。それも上下真っ白で、服から出ている肌も、雪みたいに白かった。
「傘がないから、急ごう」
圭はいくらか早足で歩き始めた。引っ張られるように歩き出せば、真っ白い二人とすぐにすれ違う。
その通り過ぎ様、
「今日もかっちかちに凍らせた味噌汁、作ってあげないとね」
「パパ喜ぶね」
と、真っ白い二人のおよそ理解しがたい会話を耳に挟んだ。
しばらく歩いた後、圭は前を向いたままボソッと言った。
「こんな寒い日に凍った味噌汁って……」
あの二人は圭に見えていたようだった。言葉も聞こえていたのだから、やっぱり人なのだろうか。
二人の嬉しそうな声が、やけに耳に残る。
「体が凍っちゃうね」
たくみも前を見ながら話すと、
「ほんとだな」
圭はくすっと笑っていた。





