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国友鉄砲鍛冶衆の娘  作者: 米村ひお
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ゆめ

「そのうちわかる」

「ようになる」


「いつも」

「いっしょだから」


「そうだね、いつも一緒だね、みのとのびは」


 すると蓑火は一瞬、ぽっと明るく光った。


「ううん」

「ちがう」


「たくみと」

「いっしょ」


「たびする」

「どこまでも」


「旅? わたしと一緒に?」


「たのしい」

「たび」


 楽しそうに話しているから嘘では無さそうだが……たくみには蓑火と旅をした覚えは無い。蓑火の話に小首を傾げ、しばらくの間、静かに炎を見つめていた。


 闇に響く緩やかな波音を聴きながら、たくみは小さく溜め息をつく。考えていても、わからないものはわからないのだ。そろそろテントに戻らないと皆が心配するだろう、波打ち際を離れ、テントへと歩き出す。


「声を出すとみんなが怖がるから、静かにしていてね」


「わかった」

「静かにする」


「みのとのびはいい子だね」


「みの、いいこ」

「のびも、いいこ」


「うん、そうだね」


 蓑火が入ったランプを持って帰ると、同じテントで眠る兄弟たちは我先にと覗き込み、やいやいと質問をした。


「なんだ? そのランプ」

「火の色が普通じゃない」

「花火?」


 聞き取れないくらいの質問を浴びせられても、たくみはにこにこと笑うだけで、答えなかった。


「特別な油なの」


 と適当に誤魔化せば、兄弟は皆納得し。たくみは枕元にランプを置いて眠りについた。




 その日、たくみは妙な夢を見た。

 両側に藪の広がった、でこぼこの埃っぽい道、曇天の空。

 白い息をくゆらせたその前方に、厚手の着物を着た青年の背中が見える。腰に棒の様な物を挿しているのが、遠くからでもわかった。


 自分の足元を見てみると、何と自分も着物を着て、舗装されていない道を歩く足は土に汚れ、草鞋を履いていた。


 ―わらじ


 驚くたくみは、背中に何か背負っている事に気が付く。肩越しに振り向くと、それはいつも背負っているお気に入りのリュックだった。米軍の背嚢で、帆布を使っている。恵みの家にいたときにアウトドア愛好会にたくみが加入した際、先生がたくみに進呈したものだ。


 リュックの横に括り付けられているのは先生がくれた小さなランプ。その中に、みのとのびがいた。


「みの、のび、」


 思わず声をかけた自分の声は、なんとお姉さんの声で。それに、どちらがみので、どちらがのびか、ごく自然に分かった。そんな自分に驚いて、口をつぐんだ。


「なに」

「たくみ」


 みのとのびが相変わらずの可愛らしい声で返事をしたとき、雪が降り始めた。


「……雪」


 六花を受け止めようと掌を空に向けると、その手はしなやかで美しかったが、指紋の溝が黒く煤けていた。


 ―手もお姉さんだ、


 そのとき、ふっと意識が浮上した。

 あまりにもふしぎで、あまりにも現実的な夢から目覚めたたくみの脈は、いつもより早く打ちつけていた。



 翌朝、誰よりも早く起きたたくみは枕もとのランプへ首を向けた。けれど、蓑火はもう、ランプの中にいなかった。


 燃え尽きてしまったのか、帰ったのか。湖に落ちやしなかっただろうか。ランプを手に朝焼けの琵琶湖を眺めていると、神父がおはようと柔らかな挨拶をしてやって来た。


「おはよう、神父」


「疲れてしまいましたか、元気がありませんね」


「ううん、あたしは大丈夫。ランプが消えてて、心配なだけ」


 小さなランプを見せると、たくみとランプを交互に見て神父は柔和に笑う。


「巫女に見つかる前に帰ったのでしょう、心配要りませんよ」


 ―神父、蓑火知ってるんだ


「……そうだね、きっと大丈夫だね」


「はい、大丈夫です」


 神父と視線を交わし、ニコッと笑いあった。





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