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国友鉄砲鍛冶衆の娘  作者: 米村ひお
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きちゃった。

 

 港で待っていてくれた船に乗り、今度はキャンプ場らしきところへ到着し、大荷物を持って下船した。

 湖の雰囲気が乗船した長浜の港とはまた違った。たくみは湖畔の波打ち際に立ち、小さく声を上げた。


「わぁ……!」


 波は穏やかで水は透明、足元は石がごろごろしていて、遠浅なのが岸からでもわかった。


 夕刻、四苦八苦したテントの設営と、カレーの夕食が終わり、暮れ行く夕日を眺めながら焚き火を囲んでいた。歌を歌ったり、マシュマロを焼いて食べたり、普段宿舎で話さない事を子供達はたくさん話した。


 いつもより少し遅い消灯時間。それだけで楽しさに胸が躍る。これから寝るというのにうきうきしながら歯を磨いて戻ってくると、琵琶湖には霧がかかっていた。

 霧のかかった琵琶湖を見るのが初めてのたくみは、暗闇をものともせず、波打ち際で佇む。神秘的な光景をぼんやり眺めていると、濃い霧の向こうに小さな光を見つけた。


 それは蛍の色のようだが、瞬いたりしない。

 身を乗り出してじっと見つめていると、その光が二つに分かれ、段々光が強くなってきていた。


 ―こっちに来る


 怖くなって後ずさりした刹那、霧の中から正体を現したのは、昼間出会った蓑火だった。

 ぼんやり光る二つの炎は、風に流されながらも必死にたくみの方へと近づいてくる。


 ―湖に落ちたら消えてしまうかも


 そんな事を考えたたくみは、湖に入って蓑火を迎えに行く。


「ここだよ」


 近づいて話しかけると、淡い藤色の炎と、蛍のような緑色の炎、この二色を纏う蓑火は、たくみの伸ばした掌へと落ち着いた。


「きちゃった」

「きちゃった」


 嬉しそうな二つの蓑火は、たくみの掌に落ち着いたが、熱くも無いし、燃える気配も無い。昼間、巫女の相当な焦りようを見ていただけに、たくみは不思議に思ったが、掌の蓑火を隠すようにして、急いでテントへ戻ってリュックからランプを持ち出した。


 暗い波打ち際まで走ってきて、掌を開く。そこには小さな炎がしっかり乗っかっていた。


「ランプに入る?」


 先生に貰った小さなランプは、出かけるときいつもリュックに入れている。そのランプへと蓑火をこっそり誘えば、素直にランプの中に入ってくれた。


「らんぷ、ひさしぶり」

「おちつく」


 二つの蓑火はほろほろと燃え、優しい色合いの炎に、たくみはうっとり見入ってしまう。


「よかったね……蓑火は本当に、綺麗だね」


「みのび、きれい」

「きれい、きれい」


 ランプの中で跳ねる蓑火は、とても嬉しそうだった。


「どうやって箱から出たの?」


「隙間から」

「無理やり出た」


「ぎゅうう、って」

「ぎゅうぎゅう」


「みのび、おしてもらった」

「みのび、おした」


「そっかぁ、」


 蓑火の話を聞いていて、たくみは思った。どちらも蓑火という名前なのだな、と。


「……ねぇ、二人とも蓑火って名前なの?」


 たくみの問いかけに、蓑火はふるふると震えた。まるで、首を振っているかのように。


「ううん」

「なまえある」


 この返事に、たくみは思わず返してしまった。


「名前あるの?」


「ある、みの」

「あるある、のび」


 しかし、たくみは蓑火をじっと見て思う。区別が付かないな、と。


「でもどっちがみので、どっちがのびか、判断難しいね」


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