ここからだして
碧い湖に突き出す崖の突端に、鳥居がある。そこへ向かって大騒ぎでかわらけを投げた、帰り道。たくみが投げたかわらけが鳥居を潜ったという話題で持ちきりだった。
けれど、当の本人は一行からやや遅れて、一人静かに歩いている。それは、拝殿から琵琶湖を眺めていたからだった。
―なんかいる
それが何かは分からないが、かわらけを投げた直後から何かを感じ取っていた。島に来たとき、この場所には崇高な精神が宿っていると感じていたから、そのせいかも知れない、と思ってやり過ごそうとしていたのだが。
一人通り過ぎた本殿で、ささめきが聞えてきて足を止めた。その声は高めで、子供ようだった。
本殿をじっと見つめていると、かたかたと戸を揺する音が聞こえてくる。
「ここから出して、」
耳を澄ませているところに聞こえた言葉に、たくみははっとする。子供が助けを求めている事に驚いて、咄嗟に本殿にあがり、音の出所を探した。
薄暗い本殿奥で、内側から押すように揺れる扉を発見した。けれど、それは子供が入るにはあまりにも小さい扉だった。
薄暗く狭い場所に子供を閉じ込める行為に、全身に鳥肌が立った。そのあと急激に血が巡り、かぁっと体が熱くなった。
―ひどい!
怒りにも似た感情が湧いたのは、シスターの罰に似たようなものがあるからだった。反省箱と名付けられた小さなダンボールに入れられ、泣きじゃくる兄弟をよく見かけた。けれどシスターの目を恐れ、助けてあげる事が出来ず歯がゆく思ったし、シスターの顔色を窺う自分を嫌悪した。
けれど今、シスターはここにはいない、助けてあげられる。
そんな使命感に駆られ、かんぬきに手をかけた――





