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国友鉄砲鍛冶衆の娘  作者: 米村ひお
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ムキムキヒーロー

 神父に言われて覗いてみれば、小さな達磨がみっちりと並んで置かれていた。


「この弁天様をかたどった達磨に、願いを書いた紙を収めて奉納するとご利益があると言います。奉納してみましょうか」


 神父は子供達に一つずつ達磨と紙を渡すと、子供達はリュックから筆箱を出して熱心に書いている。未就学児組はそれぞれお世話を任されている兄弟に代筆してもらうのを、目を輝かせて覗き込んでいた。


「願いは何だ?」


 圭がたくみに問うと、たくみは即答した。


「鉄砲鍛冶になりたい」


 本気で言ってるのか、と圭は思ったが。そういう自分の願い事はムキムキヒーロー、と書いていた手前、黙って書くしかなかった。

 本堂を後にして階段を下りてゆくと、途中で素通りしてきた鮮やかな門の前で神父は立ち止まった。


「この唐門は、秀吉さんを祀った豊国廟にあった極楽門を移築したものです。大阪城の遺構ではないかとも言われています。彫りの紋様、動きのある雰囲気は、豊臣の強さを表していますね。さぁ、行きますよ」


 神父はにこにこと、唐門をくぐっていった。


 きらびやかな観音堂を過ぎると、桃山時代、重文、船廊下、と書かれた木の立て札のある渡り廊下に入った。


「ここは船廊下です。この屋根は、朝鮮出兵の際に秀吉さんのご座船、日本丸の船櫓を利用しています。そのことから船の廊下、船廊下と名前がつきました」


 たくみは神父の話を興味深く聞いた。育みの家に来てからというもの、叱られっぱなしで閉鎖的な暮らしをしていただけに、久しぶりに心が解放されていい心持ちだった。




「ここが竹生神社です。この辺一体には蓑火が宿ると言い伝えられている草、蓑火宿りが自生しています。日本でここにしかない種だそうで、手厚く保護されています」


 神父の話を聞いて、たくみは辺りを見渡したが、珍しそうな草はどこにも見当たらなかった。


「かわらけに願い事を書いて投げましょう」


 神父に誘われて、兄弟たちは小さな素焼きの皿にさらさらと筆で書いている。


「さて、今度は何を願う?」


 圭に問われたたくみは、少し考えてから答えた。



「蓑火に会ってみたい」


「会ったら燃えるぞ?」


 反射的に返した圭の言葉を、たくみはにこにこで受け止めた。


「琵琶湖に飛び込むから大丈夫」


「竜神様に引きずり込まれてしまうだろ」


「そん時はそん時。また考える」


「……本当にその願いでいいのか」


「うんっ」


 笑顔に畳み込まれ、圭は小さく溜め息をつき。言われた通りに願いを書いてやるのだった。




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