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国友鉄砲鍛冶衆の娘  作者: 米村ひお
茅場の怪
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寸止め

 ***


 ゆらり落ち、ふわり浮き上がり。

 今にも止まりそうな羽ばたきで山間にひっそり佇む小屋へ戻った少年は胴体着陸する飛行機の様に着地して。辛い体を引きずるように家にあがると、最後の気力を振り絞ってせんべい布団を雑に広げ、そこへ倒れこむ。


 背に生えていた見事な翼はいつの間にか消え、体は青年へと成長してしまった。

 黒いお面を雑に外し頭上に放れば、煌く朝陽の中で眩しそうに開かれた炎のような赤い眼は黒くなり、変化が終わると深い溜め息を吐き出した。

 男がうつろに眺めるのは握りしめている蛍の筒。それは夜明けと共に急速に光を失った。今、乳白色の筒の中は薄っすら蛍の色味を残しているだけだ。


 “惚れたのか”


 布団の傍へ放ってある刀は言う。


「違うっ」


 男が速攻で言葉を返すと、


 “ほぅ、なれば俺が貰うとしよう”


 刀は一件落着とばかりに落ち着いた様子で話した。


「それはだめだっ」


 更に反論すると刀は愉快そうに、


 “なぜだ、俺はあの童女と血を交わした”


 正当な理由だと主張する。

 すると男は、


「お前刀だろ、相手は童女だ、貰うとかもらわないとかいう問題じゃない。 それに……俺だって、血を……交わした」


 恥ずかしそうに語尾が弱くなっていく。


 “べた惚れだな”


「ちがう、使えそうな奴だと思った、それだけだ」


 “奇遇だな、俺も同じだ。あれの血は美味い、その上あの柔肌。 わしとした事が年甲斐もなく勝手に反応してしまった”


「そういえば妖力を発してたな」


 刀が蒼白く光ったのを思い出した男は素直に頷いた。


 “たくみといったか、あの童女は俺の言葉が届いたと見える、加えて従順、今回は達しそびれたが寸止めも一興、次回交わることがあれば最奥へ忍び、深く浅く時をかけて交わり最高潮に達し、果てを味わいたい”


「お前ほんと歪んでるな」


 “妖刀嵐童の所以よ”


「お前だけにはたくみを渡さない、絶対だ」


 “それはたくみが決めることよ。 だが五右衛門、存在を知られたのに始末しなかった、さらには土産まで持ち帰り眺めるとは、ぬしも年頃よの”


 五右衛門がサイリウムをうつろに眺めていた事を引き合いに出して嵐童は言う。


「命の恩人を殺めるほど俺は腐っちゃいない」


 “お人よしは死に急ぐだけだ”


「かもな。 けどあいつは違う、わかるんだ」


 “そうか”


 ―恋の病に付ける薬はないと言うが、典型だな


 嵐童は思ったが口に出さなかった。

 嵐童がススミ一族に惚れこんだ理由はこの純真さあってこそだ。一族の末路は絶望的だが、あの童女が未来を変えてくれるかもしれない。五右衛門と共にあればそれでいいと思っていたが此処に来て楽しみが増えた事を嵐童は心中で喜び、浅い眠りに落ちた。





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