一本たたらの鍛冶講座。魔法の泥
国友鉄砲ミュージアムの館長さんは、慣れた様子でたくみと圭を迎えてくれた。
圭に事情を説明された館長さんは、
「自由に見て回りなさい」
と言うと、たくみはひとり、二階へと駆け上がっていった。
その背中を見送ったあと、館長さんは言った。
「よほど気に入ってくれたようだなぁ」
「うん、一人でゆっくり見たいんだって言うから……心配だけど、でもたくみだから大丈夫だとも思う」
「そうかい。三十分したら、迎えに来るんだね」
「うん、隣の公園で遊んでいるから」
「わかった。責任を持って預かるから、約束の時間は守っておくれよ」
「うん! 三十分後に!」
圭はミュージアムを飛び出していった。
*
ミュージアムの二階で、たくみは一人座って展示物をじっと眺めている……ように、周りの人には見えているはずだ。
たくみの視線の先にある細工場を再現した展示物は、ジオラマになっている。隅々を見渡しても茶色か煤色の暗い色味だ。
細工場の前面には二枚の透明パネルが置いてあり、男が二人描かれている。それは細長い筒を叩く様子で、鉄砲鍛冶だとわかる。今にも動き出しそうなその絵の向こうに、一本たたらが居た。
「まずはこれ」
一本たたらは細工場の中心に置かれている四角い箱をぽんと叩く。
「これは鍛冶屋の命、ふいごだ。天から降ってきた有難い道具だ。箱から伸びてる取っ手を押したり引いたりすると風が起こる。それは地面に埋められた筒を通って、ここ、火床まで届く」
ふいごのそばにある、炭で埋まったへこみを指した。
“ほどって?”
「鉄を赤める場所だ。火を熾し、火床の奥にある炭をここへ掻き落として使う。とても熱いから落ちたりすんなよ」
“気をつける。で、ふいごで風を送るとどうなるの”
「火ってのは、風を送ってやるとよく燃える。燃えると温度が高くなる。鉄は、温度が高くないと形を変えたりくっつけたりするのが難しいんだ」
“鉄ってくっつくの……!”
「あぁ、くっつくさ。灰と粘土を混ぜた魔法の泥を塗って、赤めて、あの鎚で叩けばな。でもって。叩くために必要なのが、これ。金敷だ。この上に物を乗せて叩くって寸法だ」
一本たたらは火床の近くの、地面に置いてある鉄の塊を指した。
「ふいごのそばにある横座に座るのが親方で、鉄を赤めて、ハシでつまんで金敷きに置き、追い鎚に指示を出す。これがまた、息が合ってないとなかなか難しい作業だ」





