魔法のペースト
廊下の隅で、ぎこちない手つきでドアノブを磨いているたくみの元へ、神父がやって来た。
「頑張っていますか」
柔らかい関西訛りで話しかけると、たくみは手を止めた。その腕に、掴まれたらしき手形が痣になって付いている事を、神父は見つけていた。
「……全然綺麗にならない」
見上げた表情はあまりにじっとりしていて、神父は微笑を深くした。そして、
「これを使うと綺麗に落ちますよ」
そう言って差し出したのは、ペースト状の白い物体が入っている小皿だった。
「これなに?」
「重曹とお水を混ぜたものです。軽く拭くだけでぴかぴかになりますよ」
「ありがとう!」
嬉々として受け取ったたくみは早速試してみる。
「おおお! ぴかぴか! しんぷすごい!」
振り見上げるたくみの瞳がきらきらと輝いて、さっきのじっとり顔は、よほどつらかったのだろうと想像がついた。
キュッキュとドアノブを磨いているたくみに、神父は言った。
「たくみ、週末は湖畔へキャンプに行きましょう」
その誘いにたくみの首はぎゅんと回って神父へ向いた。
「きゃんぷ! 行く!」
布を握り締め、鼻を膨らませているたくみに、神父は続けて言った。
「その次の週末は小谷城を巡って、その次の週末は安土城なんてどうだろう、まだまだお城はたくさんある、長浜城、殿屋敷。お城じゃないが竹生島は歴史のある場所だ。ああそうだ、戦国時代に関係する神社仏閣も巡ろう」
神父はたくみのサバイバル魂と歴女魂を、この先半年は軽くくすぐり続けるが如く、あちこちへ行こうと提案するのだった。





