恐怖のドアノブ磨き
子供たちが遊んでいる部屋までたくみを連れてきたシスターは、強く握っていた手をようやく離した。それから、部屋の子供達に聞えるようにわざと大きな声で、たくみの頭上から質問をした。
「たくみちゃん、あなたはさっきどこにいたんですか」
子供たちの騒ぐ声が一瞬にして静まって、みな一斉に声のするほうへ首を向けた。
そこにはとげとげした空気を纏うシスターに睨まれているたくみがいた。
「入っちゃいけないお部屋」
「そうです。たくみちゃんは規則を守らなかった。それは良い事なのですか、悪いことなのですか」
「わるいこと」
「その通りです。たくみちゃんは悪い事をしました。規則を破れば罰が与えられます。これからたくみちゃんにはドアノブ磨きをしてもらいます」
そう言って、シスターは白い布を一枚手渡した。
「私がいいと言うまで磨きなさい」
「……」
不本意ながら受け取る。規則を破ったことは認めるが、なぜあの部屋に入ったらいけないのか説明がない。強制されるだけでは納得いかないのだ。
シスターにごめんなさいと言っても無駄だろう。そんな風にたくみは思う。現に、シスターにはごめんなさいを求められてはいない。それに、たくみには謝る気なんか初めから無いのだ。女同士の永遠に認め合う事をしないであろう生理的に合わない何かを、人生で初めて感じていたのだから。
「あの子、返事もしないんですよ。自分の非を認めない、全く生意気な子」
シスターは応接のソファにどかっと腰を下ろした。
「まぁまぁ、落ち着いて」
神父は冷たい麦茶をシスターに出した。ふてぶてしい顔で麦茶を飲み干したシスターは、気持ちが治まりきらない様子で話した。
「それにあの子、いつも鍵のかかっている屋根裏にどうやって入ったのか……それに屋根裏部屋で一人で話をしていました、散歩へ行ってもいつも姉川の堤防をじっと見つめていて……全く気味が悪いったら」
たくみの事を訴えるのだが、神父は柔和に微笑み、
「愛しなさい」
と諭すだけだった。





