弥一の回想
弥一はしばらく天井のほうへ視線を漂わせていたが。
「野村の合戦、ってぇのは……」
弥一はたくみへ視線を向けず、ぽつぽつと、話し始めた。
「すぐそこに姉川があるだろ? そこで昔、織田と浅井の合戦があった。俺はその時ハタチそこそこで、織田の足軽として従軍してた。一番槍で首級挙げて、たくさん褒美もらって、弥一って名を世に轟かせようって意気込んでた。里のててとかかに少しでも楽してもらいたかったし……今思うと俺は本当、欲張りだな、」
自分を笑う弥一は、ちら、とたくみを見上げ。小さくため息をつき、話を続けた。
「浅井と朝倉の連合軍に負るはずがない。なんせ、こちらには文明の利器、鉄砲があるからな。それに国友の鉄砲鍛冶も従軍してた。国友が味方に付けば負けないと、誰もがそう言っていた。けどよ、それがまた生意気でな……刀をもう少し労われだの、命を粗末にするなだのと俺に説教しやがったよ。なんだな、懐かしくなってきちまったなぁ、四百年以上前の話だからな。けど俺は死んだ。体が見つからなくて、死ぬに死に切れなくてずっとこの辺を探して歩いてるんだ」
弥一は一息ついた。そしてたくみへ視線を向けると、たくみは板敷きのベッドの上で眠ってしまっていた。
「餓鬼だなぁ……」
古い布を口に咥え、たくみに掛けてやる。
弥一はどこか寂しそうに、穏やかな寝顔を見下ろしていた。





