首だけ弥一
コン、コン、
木製の質素なドアを軽く叩く。
すると、すぐに男の声で返事があった。
「入れよ」
―返事あった……!
丸い真鍮製のドアノブをまわし、軽くおすと。
キィィィ、
昨晩鍵のかかっていたはずのドアは、高い音を鳴らして簡単に開いた。
殺風景な部屋の中には、雑多なものが壁際に積み上げられている。そして外から見えた小さい屋根付きの窓から朝陽が入り、その窓の下には、簡素なベッドが一台置いてあった。
「よっ、お前か」
昨晩地下室で出会った落ち武者はベッドの上にちょこんと乗っかって、相変わらず顔色が悪いが、軽妙な調子で言った。
「あたしたくみ、さんさい、歴女で、妖怪とかお化けが見える」
「俺は弥一、見ての通り、首だけで暮らしてる」
そう言って、弥一は首をふわりと動かしてベッドを空けた。
「何もねぇけどさ、ゆっくりしていけよ」
「ありがとう」
ふぁ、とあくびをしてベッドに腰掛けたたくみを、弥一は見上げる。
「眠れなかったのか」
「うん」
昨晩の一件で、心がそわそわして寝付けなかったのだ。またあくびをしたたくみに、弥一は言う。
「俺ァ、何百年と寝てねぇ。否、ずっと寝てるのか、どっかでな」
この言葉に、たくみは弥一へ首を向けた。
「どっか?」
「あぁ、野村の合戦で俺は死んだ」
「のむらの合戦?」
「何だ、しらねぇのか……そうか、そうだよなぁ……」





