表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国友鉄砲鍛冶衆の娘  作者: 米村ひお
日吉神社の燈明祭
48/381

地下室の亡霊

 

 火遊びをするとおねしょをする。


 めぐみの家にいた頃、先生はそう教えた。


 けれど、原始体験教室やキャンプに季節問わず連れて行かれ、火熾しや焚き火、自然の中で行き抜くサバイバルな暮らしを頻繁に体験させていたのも、先生だった。


 時と場所が大事――


 そんな事も言っていた。


 家の中で焚き火をしないけれど、キャンプ場ではそれが許される、と笑っていた先生の顔を思い出す、育みの家の夜中の廊下。皆は寝静まり、物音ひとつしない。


 窓から見える月は斜め横から見た温泉饅頭みたいな形で、暗い廊下を薄く照らしていた。


 ―先生の話は本当だ


 寝る前にお手洗いへ行ったのに、おしっこがしたくてお手洗いを探す夢を見て起きてしまったのだ。


 *


 花火のあと、きもだめしと称してたくみは一人きり、懐中電灯片手に歩いた。

 圭は心配していたが、たくみは怖くなかった。暗闇の中を歩くのはサバイバルな感じがして胸が躍った。それに、何か居たとしても、自分に危害を加えるようなことはしないと信じていた。今まで出会った人と違う者たちは、幸いなことに暴力的ではなかった。これは幸運、なのだろうが……三歳のたくみに、それが分かるはずも無い。


 子供達は宿舎の外から、懐中電灯が動いてゆくのをじっと見上げていた。開かずの扉まで続く廊下を、灯りがゆらゆらと、止まることなく進んでゆく。


 宿舎の真ん中辺りで灯りが大きく揺れた。子供達は息を飲んだ。開かずの扉へ続く階段の前にたくみが到着したのだとわかった。そして灯りは、階段の中へ消えていった。


「あいつ、立ち止まりもしなかったな」

「どんだけ肝が据わってんだ?」

「絶対呪われるぞ、あれ」


 圭の耳に兄弟の言葉が届く。付いてこなくても大丈夫だとたくみに言いきられたが、やっぱり一緒に行ってやればよかったと後悔した。


 一方のたくみは、開かずの扉の前まで来ていた。真っ暗な中でドアを見つけ、ノブをまわしてみる。

 けれど、鍵がかかっていてドアは開かなかった。


 ―次行くか


 諦め早く、今度は地下室へ下りる階段前まで来た。けれど、こちらも下に続く階段の先は真っ暗で、何も見えない。耳を澄ましても、子供たちが噂していたような声は聞こえないし、何の気配も感じられなかった。


 ―もどろぅ


 懐中電灯を消して、シスターに見つからないように最大限の注意を払って外へ出た。

 たくみがきもだめしから戻ってくると、圭が一番最初に迎えた。大丈夫かと覗き込まれ、たくみは笑って返せば、盛大な溜め息をついていた。


 きもだめしの様子を兄弟たちに報告をすれば、でもきっとお前は呪われるんだぞ、などと一番年長の男の子が脅してきた。


「呪われるとどーなるの?」


 未知との遭遇に目を輝かせて問うたくみに、


「転んだり、事故に合ったり、不幸が訪れるんだ」


 と、男の子はたくみを怖がらせるように言う。けれど、口の端は上に持ち上がってニヤニヤとしていて、説得力はまるでない。怖がらせて面白がっているとすぐにわかった。


「わかった、きをつける」


「わかってないな、気をつけられるもんじゃないんだ、呪いっていうのは」


 たくみは話を終わりにしたいのに、男の子は食い下がった。


「じゃあどうしたらいいの」


 とりあえず返してみると、男の子はしたり顔で言った。


「呪われるしかない」


 ……と。


 同じ屋根の下に暮らす兄弟、しかも最年少を怖がらせたくて仕方がないらしい。


「じゃー呪われる、たのしみぃー」


 るんるんで部屋へ帰ってゆく背中を、男の子は面白くない心持ちで見送った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ