開かずの扉と、地下室の幽霊
園で一番年上の男の子が、声変わりの時期独特のかすれた声で企んだように言と、円になっている子供達は緊張した面持ちで、男の子に首を向けた。
たくみには何が来たのかよくわからず、圭にくっついて緊張した空気に飲み込まれていた。
「今夜だけ話す事を許されている、あの話だ。……開かずの扉と、地下室の幽霊」
蝋燭を囲んで、男の子は真剣な面持ちで言った。
その時、頼りない明かりが風に揺れ。子供達の瞳だけが一斉に動き、見えない何かを探す。恐怖と緊張感が一瞬にして広がると、男の子はぐるりと辺りを見渡して。
それからゆっくり首を戻すと、わざとらしくにやりと笑った。
「幽霊が騒ぎ始めたな」
地面にある蝋燭の炎に照らされて、男の子の表情はかなり気味が悪い。けれど……真っ黒いぶよぶよや、姉川の堤防にいた灰色しわしわ人間、ミュージアムにいた一本たたらと比べれば、この程度、たくみにとっては怖がるものでも無い。暗闇もキャンプみたいでわくわくする。それに、わざと怖がらせるように話す男の子の、声変わりの時期特有のたまに裏返る声色が、そこはかとなく愉快だった。
けれどこの状況、笑ってはいけないんだろうなと幼心にたくみは思う。不安そうな子、笑って強がる子、耳を押さえている子……十人十色、話を聞く体制は万全、といったところだ。