ぅいっ!
声を出さなくても話が出来るようになったきっかけは、たくみが初めてミュージアムを訪れた、その翌週までさかのぼる。
圭と共に二回目のミュージアムを訪れたたくみは、二階の展示室まで駆け上がった。そこで一本たたらと落ち合おうと思って、はたと気が付いた。
一本たたらと話をすると、周りの人には独り言を話しているように見えるだろう。そうしたら圭が気持ち悪がるかもしれない、と。
そこでたくみは考えた。
首をひねって考えた、のだが。
……いい案が思いつかない。
これではミュージアムに来た意味が半分無いようなもの。萎れながらも展示物を見て回っていると、一階から声が聞こえてきた。どうやら、園の兄弟が圭を迎えにやって来たらしい。
「圭ー、公園いこー」
「おー、でもさー」
そう言いながら、圭は階段を降りてゆく。
「今来たばっかりだから、もう少ししたら――」
圭の声は段々遠くなり、やがて聞こえなくなった。
その時、薄暗い展示室の隅からひょっこり現れたのは一本たたらだった。
「よぉ、来たか」
「うん、でもお話しするの難しい」
「なんでだ?」
「独りごと言ってるって、怖がられる」
「ほぅ、そーいうことか」
すると一本たたらはお尻のほうへ鋭い爪の付いた手を回し。お尻をまさぐるように体をくねらせて。
「ぅいっ!」
何か引き抜いたらしく、体をびくつかせて痛そうな顔をしたあと――
鋭い爪に摘まれた白銀の毛をたくみに差し出した。
「耳に入れろ」
と、平然と言いながら。





