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お水をこぼしてもいい夜
シスターの事を思い出しているたくみは、子供らの話を聞きながら、ボソッと言った。
「お水こぼしても平気」
すると、隣で手を引いている圭はにかっと笑い。
「何回こぼしたっていいぞ」
元気な声に、たくみは花が咲いたように笑い、夕刻の空に拳を突き上げる。
「いいぞぉ!」
「おー!」
それに倣って、圭も拳を突き上げた。
人通りが多くなってきた頃、圭が指をさす。
薄暗くなってきた空の下、緑深いそこは、明々としていた。
「こないだミュージアム行くときに前を通ったろ、あれが日吉神社だ」
確かに神社らしき前を通った覚えがある。
参道の入り口を通りかかるたくみの目に飛び込んできたのは、掲げられた大きな行燈、参道を縁取る無数のともし火……
吸い込まれそうな感覚に陥り、足を参道へ向けた時。圭は神社を素通りし、兄弟たちと一緒に神社の脇道へ入ってゆく。





