ひらがなカタカナ表
あるとき、たくみは不注意で水をこぼした事があった。その時シスターは気をつけなさいと言うだけだった、その翌日のこと。
後ろを確認せずに突然振り向いたシスターと、前日の不注意を反省して慎重に水を運んでいたたくみがぶつかって、水をこぼしてしまった。
するとシスターは、怒りに任せてたくみを叱りつけたのだ、前をよく見て歩きなさい、と。
怒り冷めやらぬシスターが部屋を出て行き、ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間。戻ってきたシスターの手には真っ白い紙が二枚あり――
『これをお手本にして書きなさい』
そう言ってたくみにずいと突き出した。よくよく見ると、白紙の紙と、何か書いてある紙だった。
『圭君、百回書くまで部屋からたくみちゃんを出さないように』
圭に見張りを言いつけてシスターが去ると、たくみは小首を傾げた。
『なんてかいてあるの』
紙を眺めるたくみにはきょとんとしたきり。圭はそれを読み上げてやった。
『しすたーのふくにみずをかけてごめんなさい、まえをみていなくてごめんなさい』
読みながら、圭は眉を落とした。
『たくみはひらがな書けるのか』
『ううん』
笑顔でふるふると首を振られ、それを見ていた圭の表情は、次第にほぐれてゆく。
『……そっか、俺がひらがな教えてやるから、心配すんな』
『ありがとう!』
ベッドのある部屋に戻ると、
『これ、もう使わないからたくみにやる』
圭は机の上のマットに挟んであった色とりどりの大きな表を取り出した。
それにはひらがなカタカナ表と書かれていて、たくみの机の上のマットに挟んでやるのだった。





