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国友鉄砲鍛冶衆の娘  作者: 米村ひお
麗しのお兄さん
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お人よしの賭け3

「素晴らしい?」

 目を丸くする五右衛門に、又左衛門は眉を上げて面白い企みといった風に口元をほころばせた。

「そうだ、毎日餓鬼に戻れるなんて、いたずらし放題だろ?」

「いたずらなどいけません。それに誰にも知られないように潜まなければ皆が混乱を――」

「そう堅い事言うなよ。一日一回、童心に返れるんだ。体ごとな。おれがもしお前だったら、良き理解者を味方に、昼も夜も変わらずに暮らすがな」

「良き理解者とは……?」

「例えばお前だったら、それは俺のことだ。日が昇れば俺の与力、日が沈んだら俺の近習。そうすれば皆はお前と知らず、疑わない」

「体の大きさが違うだけで、知れてしまうのでは」

「それは杞憂だな。今のところは」

「昼間も夜も着物が同じで、中身も同じなのに俺なのに」

「なぁ六衛門、お前は朝と夕に鏡を見るか」

「朝だけ……本当の姿は闇に消えてしまえばいいと」

 消え入りそうな声を聞いた又左衛門はにこやかに立ち上がって部屋を出てゆき、再びやってきたその手には、手鏡を持っていた。

「俺が言うのもなんだが、本当のお前も、いい男だぞ」

 そう言って手鏡を五右衛門の顔の前に出した。

 ちら、と鏡を見た五右衛門は、それきり俯いてしまう。

「大人と子供、同じ人でも体が大きくなれば顔も変わる。彫りの深さや大きさがな。昼間のお前と夜のお前、どちらも端正な顔立ちだが、ほぼ別人だ。確認したらどうだ」

 五右衛門の手に鏡を握らせて、どかっと腰を下ろした。すると五右衛門は、眉間に皺を寄せながら、ゆっくりと鏡を覗いた。

「…………本当だ、」

 朝、身支度をするときに鏡に映る自分と、日が沈んだあとの自分は、多少の面影はあるが、別人と言ってもいい。

「それにさ、自分が気にするほど、他人は自分を見ちゃいないもんさ」

「……」

「まだ心配か? なら論より証拠、一度試してみようぜ」

 楽しげに声を弾ませる又左衛門は。

「よっしゃ。仕切りなおしだ。俺は六衛門と同じ年の頃には酒を飲んだが……餓鬼に酒はナシだな、白湯持ってくる」

 にこにこと、部屋を出て行った。


 “甘いな”

「何とでも言え」

 嵐童の指摘も、五右衛門は気にならなかった。




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