人には見えないもの
そう言ったまではいいが、先生は視線を宙に漂わせてまう。
「言いにくいこと、ですか」
「言いにくい、というか。信じられなくても信じてもらうしかないのですが……」
先生は意を決したようにまつげを上げ、神父と視線を合わせた。
「たくみちゃんは、人には見えないものが見えるらしいんです、窓と話していたり、壁と話していたり、廊下で一人で話していたり……独り言じゃないんです、ちゃんと会話をしていて。お友達が怖がるからやめて欲しいとお願いしたら、それ以来ぱったりやめましたが、多分、今も見えているんだと思います。今日もここへ来る途中のバスで誰も座っていない座席をじっと見ていたので。やっぱり本当に何か見えているんだと思うんです、だからもしそういうことがあったら、怖がらずに見守ってあげていただきたいんです、私は自分が怖くてやめさせてしまいましたが、それでよかったのか、ずっと悔やまれて」
肩を落とす先生に、神父は優しい声音で言葉をかけた。
「そうですか……人ならざるものが見える、ということですね。わかりました、心に留め置きましょう」
「……ありがとうございます、あの子を、たくみちゃんを、どうか、よろしくお願いします。私の代わりに、一緒にお城を巡ってあげてください、鉄砲ミュージアムも行きたがっていたので……連れて行ってあげてください」
震える声で、先生は頭を下げた。