しぞーかから
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「お茶をどうぞ」
「ありがとうございます、いただきます」
神父は先生をソファへ座るよう促し、よく冷えた麦茶を出した。
先生は麦茶に口をつけ、軽く溜め息をつく。
「静岡からの長旅、お疲れでしょう」
「いえ、あっという間でした。たくみちゃんと一緒だと、つい時間を忘れて話してしまって」
「そうですか、溌剌としたお子さんなのですね」
「ご両親が事故で亡くなって、二歳になる頃に施設に預けられました。初めは泣いていましたが、お友達に囲まれて段々笑うようになりました。今ではいつもにこにこしていて、男の子みたいな遊びが好きで、走ってばかりいます。でもとても優しくて、思いやりがあって、お友達とも仲良く出来て、御飯もよく食べますし、何より歴史が好きで……賢い子です」
先生は思い出を巡らせるように、手元の麦茶を見下ろして、寂しげに微笑んだ。
「離れるのが寂しいです、めぐみ園が閉鎖になった事が、本当に悔やまれます。もっと近くの施設が空いていればよかったのですが……お城が好きだから近江に新しいお家を選んだなどと、誤魔化して連れて参りました……」
「園の閉鎖はお気の毒でしたね。しかし、この育みの家と縁あって繋がれた事は、たくみちゃんにとって成長の糧になるのではと思っています。私共も誠心誠意たくみちゃんを見守っていきます、安心して任せてください」
「……はぃ、」
先生はハンカチで目頭を押さえていたが、思い出したように顔を上げた。
「それともうひとつ、伝えておかなければならない事が」