おれをよぶのは
頭一つ飛び出た細面の顔は利乃助で、顎が張り気味のがっしりした顔は藤兵衛、真ん中の小さな顔はたくみだと説明する。その表情は、にこにこと上機嫌だ。
「特徴を良くつかんでいますね。本当に上手だ」
「ありがとう。喜んでもらえてよかった」
人知れず男泣きをしていた藤兵衛は、陽気に振舞いながら利乃助の元へやってきた。
「私の顔はあんな感じかい?」
しみじみ顔をさする藤兵衛に「その通りだ」と利乃助とたくみが返せば、
「そ、そうかぃ?」
半信半疑の様子でいまだに頬をさすっている藤兵衛を見て吹き出した利乃助とたくみの笑い声は、鎮守の森の空高く響いていった。
その夜、たくみは眠る前に頭の中で話しかけた。
“たたちゃん、どこにいるの”
毎年燈明祭でその姿を見かけていたのに、今年……否、この時代の燈明祭に一本たたらの姿はなかった。一抹の不安を胸に呼びかけても、一本たたらからの返事はなかった。
一方、どこぞの山の奥深く。
一本たたらは干したヤモリを肴にして、毛むくじゃらで痩せこけているのにお腹だけがでっぷり飛び出た、牙の生えた物の怪と茶を飲んでいた。
「今日の収穫はあったのか?」
「うん、茶漬けを食べてきたと返事をしたのが三人」
「そりゃよかったな」
「まだ足りないよぉ」
「お前にとっちゃ、いつもだろうよ」
「まぁねぇ」
へへ、と照れくさそうに笑う痩せこけた毛むくじゃらの物の怪は、ぼうっとしている一本たたらに気が付いた。
「ねぇ、急に黙りこくってどうしたの」
「ああ……それがなぁ、今、子供が話しかけてきたんだ」
「……! 怪現象っ」
毛むくじゃらの物の怪が目を剥いて驚く。
「そうなんだよ。夜にしか聞こえないんだ」
つい数日前から誰かが話しかけてくるのだと教えれば、毛むくじゃらの物の怪は縮み上がった。
「取り憑かれてるんじゃ……!」
「かもしれねぇ……ってか、取り憑く専門はヒダル神、お前だろうよ」
「そーだけど……怖いねそれ」
「悪意があるようには聞こえないんだ、けど……いったい誰なんだろうな、俺を呼ぶのは」
湯飲みへ視線を落とす。その中に映るのは、自分の大きな一つ目だった。





