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国友鉄砲鍛冶衆の娘  作者: 米村ひお
迷い込んだ先
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利乃助さんととうちゃん、真ん中があたし

 足取り軽く寄ってきたのは小川のはたらで会議をしていた女だ。一人寄ってくると後から後から人が集まってきて藤兵衛の周りは人だかりが出来てしまう。

 すると藤兵衛は人だかりを見渡して一呼吸。たくみを呼び寄せて肩を抱き、


「みんなに紹介しよう、私の娘、たくみだ。御仏の思し召しだ。娘をどうぞよろしく頼む」


 穏やかに、落ち着いて、真っ直ぐに話すと深ぶか頭を下げ。それを横目でちらっと見たたくみも急いで頭を下げ、その様子を見た利乃助も頭を下げた。


 優しげな藤兵衛の話しぶりには余計な質問を寄せ付けない圧があった事は間違いない。架空の人物を嫁に仕立てて誤魔化すことはしたくないし、かといってたくみと何処で知り合ったのか話せば、隠しておきたいススミに関する情報を知らせてしまうことになりかねないからだ。


「御仏の思し召しなら大事にしておやりよ」


 伴侶詮索を諦めた女はカラリと話し。


「あたしはつる。この子は松。困ったことがあったらいつでも金具師の徳のところへおいで」


 背中におんぶしている赤子をたくみに見せて、それからたくみの頭をごしごし撫で。徳に目配せをしたつるは「じゃあね」とたくみに笑顔を向けて帰るのを合図に、人垣はばらばらと崩れていった。


 徳と仁と話し込んでいる藤兵衛と離れ、圭と九と一緒に小行燈を見て回るたくみは、


 ―徳さんの奥さんがつるさんで、その子供が圭ちゃんと松ちゃん。仁さんの子供が九ちゃんか


 力作揃いの小行燈をぼんやり眺めながら村人の関係性を咀嚼していると、圭は思い出したように声を上げた。


「そうだ、あの話、父ちゃんに話したらいつでもおいでって話してたから好きなときに来いよ。家の場所は藤兵衛さんに聞けばわかるから」


 すると、お九がそれに続けて。


「俺も父ちゃんに聞いたんだ、そしたらいつでも来ていいって言ってた」


「みんな優しい! うれしいよ、ありがとう」


 快諾の返事にたくみは手を叩いて飛び跳ね、圭と九を両腕にぎゅーっと抱き締めた。




 並ぶ小行燈を一つ一つ愛でて歩く藤兵衛と利乃助とたくみは、一番奥の行燈の周りに人が集まっている事に気が付いた。


「あたしの行燈あの辺につけてもらったんだけど……見れるかな」


 心配そうなたくみを見た利乃助は、それならとたくみを軽々抱き上げた。


「あ、あれ、あたし描いた行燈だよ」


 たくみが指すのは人だかりを作っている行燈だった。藤兵衛と利乃助は人垣の向こうから行燈をまじまじと眺め、段々と目を見開いていく。


「何という事だろうね」


「今にも動き出しそうです」


 そこに描かれていたのは張立ての作業で、横座に座って小槌を振る藤兵衛、大槌を頭上から振り下ろす利乃助の様子が写し取ったように描かれていた。


「たくみが描いたのはこれかい」


 藤兵衛が問うと、たくみは軽く頷いた。


「うん、今日のとうちゃんと利乃助さんだよ。荒巻の作業めちゃくちゃかっこよかった」


「なぜ荒巻と知っているんだ、……あぁそうか、国友鉄砲みゅう、、、何とかだったな」


「ミュージアムね。鉄砲鍛冶をこの目で見たのは初めてだったから、残しておきたくて」


 すると利乃助が別の絵を見つけた。張立て作業の絵が描かれている対面に三人の顔が描いてある。それは張立て作業の絵とは対照的で、かなり簡素に描かれている子供らしい絵だった。

 その時、利乃助の視界の隅に、暗がりで目元を拭っている藤兵衛が見え。抱っこしているたくみの背を藤兵衛の方へと向けた。


「あれは私たちですか?」


 たくみの気を引くように行燈を指す利乃助に、


「うん、利乃助さんととうちゃん、真ん中があたし」


 とたくみは教える。



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