まいにちがさばいばる
藤兵衛の屋敷の炊事場では、うめの指示に従いくるくるとよく働くたくみの姿があった。
「ご飯は朝炊いたようだし、いさざ豆もある。そうしたら菜っ葉の汁物でもこさえてやろうねぇ」
―こさえる……
うめの言葉にたくみの胸中は反応したが、それを問い返す暇は無い。
おくどさんの前にしゃがみ、焚き付けに使う枝、薪をくべて。それから細工場から拝借してきた熾き炭を放り込んで竹筒に息を送り込むと、熾き炭に熱せられた枝に火がついてパチパチと音を立てはじめ、薪へと火が移っていく。
煙がしみる目を渋々させて、ゆらゆらと立ちのぼっていく火を眺めているたくみは心和ませる。 “こさえる” という言葉に引っかかっていた思考はいつの間にか忘却してしまっていた。
―毎日がサバイバル、最高だぁ
たくみが暮らしていた時間では、原始体験教室だったりキャンプやバーベキュー以外でやたらに火を熾すことは憚られ、落ち葉を庭先で燃やすことも禁じられているのだから、家の中で毎日火熾しというこの状況はたくみの胸は高鳴らせ、煙たくて重労働でもむしろ楽しくて仕方なかった。
川魚だろうか、干からびた魚が水に浸かっている鍋は、先程たくみが火を入れたおくどさんにかけられ、くつくつ煮えてくるといい香りが漂ってくる。そこへうめとたくみで皮をむいた小芋と菜っ葉を放り込んで、塩で味を調え小芋に火が通るまで火加減を調整しながらしばし待つ。
「ねぇうめおばあちゃん、汁物なら私一人で作れるかなぁ」
味見をしているうめに問いかけると、
「汁物だけじゃないさぁ、なんだって出来るよぉ」
数本抜けた前歯を見せてにぃっと笑う。
「ご飯は炊く自信があるけれど、おかずは味付けがわからないや」
たくみが数回参加した事のあるキャンプでのメニューは定番のカレーライスとサラダだ。原始体験教室でも同じメニューだったのだから炊飯とカレーとサラダとゆで卵は任せて欲しいところだ。けれど、それ以外の献立は白玉団子とホットケーキを作った事があるくらいで、家庭のおかずは一度も経験がない。
するとうめは、
「なぁに、急がなくても大丈夫さぁ。毎日のことだから気負うと続かんもんだよぉ。料理上手の利乃助さんも居るしな、その都度ゆっくり覚えりゃあえぇ」
そう言って、ごわごわの手でたくみの頭を撫でた。





