君のこと、何となく知っている。
小行燈を抱え山王社の境内をうろうろと。たくみは首を伸ばしてあちこちに顔を向けて。
「居ないなぁ、どこ行っちゃったんだろう」
他人の空似の圭ちゃんを探してみるが見つけられず、近くで作業をしていた男に声をかけた。
「おじさん、圭ちゃんどこにいるか知らない?」
すると男は、
「お圭か。あいつなら南側の脇道で行燈付けしてると思ったが」
山王社の南側といえば、藤兵衛の家の北側にある道のことで、たくみが素通りしてきてしまった小道だった。
「ありがとう、探してみる」
南側の小道へ回ると鎮守の森沿いには小行灯が並び、通りの奥で先程の少年が小行燈を設置しているのが見えた。
「圭ちゃーん! 描いてきたよー!」
小道の入り口で叫ぶと少年は振り向いて、大きく手を振って答えてくれた。
「飾ってやるから持って来いよー!」
―ほんとに圭ちゃんなんだな……後先祖様か?
ぶつぶつ独り言を呟いて歩き出すたくみの頭の中には育みの家で供に過ごした友達の顔が浮かんでは消えていった。
「どうぞよろしく」
「おぅ」
行燈を渡すと少年は手際よく設置してくれる。その作業を眺めていたたくみは、おずおずと口を開いた。
「あたしたくみって言うの、よろしくね」
いつもは人見知りなんてしないたくみだが、知人に自己紹介をするような感覚はどうしても慣れなくて歯切れが悪い。
「俺は圭。って、知ってるんだよな」
圭は手を休めることなく動かし続けている。
「何となく」
「何だそれ」
鼻で笑い、
「よっしゃ出来たぞ」
行燈から二・三歩下がって腕を組んだ。
「わー、仕事が早い」
たくみが驚いていると、鼻の下を人差し指で擦って「まぁな」と誇らしげだ。
「これ、炭で書いたのか?」
圭は行灯の絵を見て言う。周りの行燈は皆、筆で描かれているからだ。
「うん、とうちゃんが忙しそうだったから細工場の炭をもらって描いたの」
「たくみのとうちゃんは鉄砲鍛冶か」
「うん、そこの藤兵衛さんだよ」
通り沿いにある藤兵衛の家を指すと、圭は納得した様子で頷いた。
「藤兵衛さんちか。そりゃ炭はたくさんあるだろうな。 俺のうちは金具師だから筆には事欠かないさ」
金具師、そう聞いたたくみは花が咲いたように目を輝かせ、圭に尋ねた。
「圭ちゃんのおうちは金具師なの? ねぇ、今度見せてもらってもいい?」
「ああ、いいぞ。父ちゃんに話しておくよ」
「ありがとう! 鉄砲を作る工程、一度この目で見てみたかったんだ」
「なら、鍛冶師と金具師の間にある “台師” はもう見たか」
「ううん、でも、それも気になってた」
「ならさ、お九に聞いておいてやるよ。あいつの父ちゃん腕のいい台師なんだ」
「本当! うれしい、ほんとありがとう」
「いいってことさ。今夜の燈明祭は来るだろ?」
「うん、みんなで行く予定なの」
「じゃ、そん時に会おう。お九も連れてくるから」
「ありがとう、楽しみにしてる。あたしこれからご飯の支度があるからもう帰らなくちゃ、それじゃ燈明祭でね! 行燈取り付けてくれてありがとうー!」
手を振り分かれた後、圭はもう一度たくみの持ってきた行燈を眺め。
「あいつ、金具師に向いてるな」
腕を組んで深く頷いた。





