うめおばあちゃん
火床から離れて入り口脇の壁際に腰を下ろしたたくみは、横座に座る藤兵衛と大槌を持って立っている利乃助の後姿をじっと見つめる。
火床から出された鉄の塊はマグマのような赤色なのかと考えていたが、実際は蜜柑のような色をしていて剝いて食べたらおいしそうだと想像してしまう。けれど彼らが叩くのは丸い蜜柑ではなく鉄の板。軽妙なリズムで叩いては炭に突っ込んで赤め、また叩くを繰り返す。
そのうちにただの板だったものが鉄の芯に巻かれてゆき、筒状に変化していく。その行程は、たくみの目には二人が魔法を使っているように見えてしまう。散々一本たたらに教えを乞うて頭の中では分かっているはずなのだが。
『実際やってみないと』
と口を酸っぱくしていた一本たたらの言葉が、やっとわかった気がした。
―これは張立てかな
筒状のものを作っているということは今行われている作業が張り立てではなかろうかと考えた。
とは言え実際に見たのは初めてだ。鉄が自在に形を変えていくことが摩訶不思議に感じられ、手に持っている炭で行燈にさらさらと描き始めた。
追い鎚の音だけが響く。それはある一定の時を境に聴覚から感覚に沈んでいき、たくみの耳は槌音を気にしなくなっていた。
時間を忘れて絵を描いているたくみに利乃助が声をかけた。
「描けたかい」
火床の前に立ちっぱなしの利乃助は大槌を杖にして体をねじるように振り向いている。
「うん、描けた」
今度はそれを聞いた藤兵衛が手を休め、
「それなら、神社へ持ってお行き。ここに居るとすすけてしまうからね」
火床の前に座りっぱなしでこちらの顔もすすけて、しかも暑さのせいで赤らんでいた。
「うん、神社へいってくる! でもその前にお水持ってきてあげるから待ってて」
細工場を飛び出し屋敷の炊事場へ飛び込むと。そこに居たのは腰の曲がった老媼で、鉢合わせたたくみは驚きに声を上げた。
「おやおや、元気な童っこだ。何処の子だぃ?」
しわしわの老媼は皺に埋もれた笑みを見せた。
「とうちゃんの子だよ。とうちゃんと利乃助さんにお水持っていきたいの」
すると老媼は、
「藤兵衛さんに童っこが?」
皺に埋もれた目を見開いたかと思ったらにじり寄ってきて、右から左から観察をしている。
「芯の強そうな童っこだ、ええ子をこさえたなぁ」
そう言って、ごわごわの分厚い手でたくみの頭を撫でた。
―こさえた
この人も “こさえた” と言うけれど、こさえたとは一体どういう意味なのだろう……一抹の疑問を残しているが、それよりも大事であろう質問を投げかけた。
「私たくみ。お婆さんはもしかしてうめおばあちゃん?」
すると老媼はまた目を見開いて。
「私を知っているのかい、そうかい、なんじゃ顔が広くなったもんだ」
だみ声で笑ううめお婆さんは、利乃助に頼まれて食事の支度をしに来たのだと付け加えて話した。
「私もお手伝いする! でもその前にとうちゃんと利乃助さんにお水を持っていって、それからこの行燈を神社へ持って行ったらすぐ来るから」
水瓶から湯飲み二つに水を入れ、そろりそろり炊事場を後にした。
「ほぉ、こりゃ大したもんだ」
たくみが置いていった行燈を見たうめは描かれている絵に驚き、そして顔を綻ばせた。





