鉄砲はロマン
「せんせ、あれ何」
問われた先生も車窓を覗き込んで、建物に書かれた字を読んだ。
「国友鉄砲ミュージアム、だそうよ」
「くにともてっぽーみゅーじあむ?」
「ここ国友は古くは鉄砲鍛冶の集団がいたそうよ。その博物館かしらね」
「鉄砲……めちゃかっこいいね」
「撃つ道具よ、物騒と思わない?」
「ううん、ろまんだよ。行ってみたい……」
「相変わらずちゃんばらが好きね、なら、お休みの日に訪ねてみるといいんじゃないかしら、神父様に話しておくわね」
「うん、せんせーありがと」
屈託の無い笑みに、先生は目を潤ませ。たくみの肩を抱き寄せた。
「新しいお家にはお友達がたくさんいるわ。だから、寂しくないわ」
先生がハンカチで目元を拭うのを見たたくみは、先生の手をぎゅっと握り、手の甲をぐりぐり撫ぜて。
「いたいの、いたいの、とんでけぇ!」
勢いつけて腕を振り、指をひらひらさせて霧散させてしまう。その刹那、一番後ろの席に座る黒い塊が一瞬痛がったことなど、たくみは気が付きもしない。
すると先生は目に涙を一杯に溜めて、声を震わせて言った。
「飛んでいったわ、ありがとう」
最後ににっこり笑えば、たくみもにかっと笑って返した。
「ほら、降りるわよ」
先生に手を引かれるたくみは、座席を立ち上がったときに一番後ろの座席に首を向けた。すると黒い塊はまだ乗っていて、たくみに向かってゆら、と手を振り……たくみも小さく手を振り返した。





