郷土料理
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一夜明け、たくみは気持ちよく目を覚ました。障子には雨戸の隙間からうっすら漏れる光が筋を描いている。
気持ちよく目が覚めたけれど、この部屋に一人きり、急に心細く感じる。あのドアを潜る前は育みの家で兄弟たちと大部屋で寝起きしていたのだから、この静けさがやたら胸に響く。
シスターは愛情の薄い人だった。けれど一つ屋根の下に暮らしていた兄弟の事を思い出すと寂しくなってくる。
―今頃みんな心配してるかな
記憶の中にあるのは天井まで届きそうな三段ベッド、窮屈な荷物棚、兄弟の笑顔、国友の景色、人ではない仲間たち、神父が居る時にだけ見せるシスターの胸が気持ち悪くなるような笑顔……
素敵な思い出に浸る最後に思い出したくないものを思い出してしまい、口をへの字にして “うぇっ” と喉で呟いた。
すると、ご飯を炊く匂いが漂ってくる。
「朝ごはんだ」
シスターの笑顔など一瞬で忘れ去り、むくっと起き出して着替えを済ませると、匂いに誘われるように暗い廊下を歩き出した。
「利乃助さん、おはようございます」
おくどさんは火が入り、パチパチと枝が弾ける音と薪が燃える匂いがサバイバルな印象を与えて、たくみはそれだけで楽しくなってくる。
煙はもうもうと利乃助を包み込んで、おくどさんにかけられている羽釜からは蒸気が上がり甘いようなまろやかな香りも混ざっている。
「おはようございます。早起きは感心ですね」
くるくるとよく動く利乃助は、羽釜の隣で炊かれている浅い鍋の木蓋を開け、真っ直ぐのお玉片手にひと掬い。一つつまんで口に運び数回咀嚼すると、
「んっ」
満足そうに頷いて鍋をおろし、流し台にあるたらいへ湯きりをした。
「何を作っているの?」
湯気がもうもうと上がるのを見ていたたくみは問う。
「いさざ豆ですよ、ほら、このいさざと一緒に炊くんです」
利乃助がざるを見せると、たくみは興味津々で覗き込む。そこそにはぴかぴかのべっこう飴の様な色の透き通った小魚が何十匹と入っていた。
「これがいさざ?」
「そうです。たくみ坊は食べた事がありませんか」
「多分あると思う。お豆と小魚を炊いたやつだよね。それ好きなんだ」
「それで合っていますよ、ほっぺが落ちてしまうくらい美味しいし、滋養があります。みんなでいただきましょう」
出来上がりが楽しみだと喜んでいたたくみだったが、次の話しを聞いた利乃助はたくみの事を “やはり女子だな” と痛感させられた。童じゃこういう言葉は早々出てこないだろうと思うのだ。……自分は別としてだが。
「作るところ見ていてもいい? 手伝うことがあれば手伝うよ」
「それじゃあ、いさざを火にかけますから、焦げないように番をしてもらえますか」
「うん! じっと見つめてる」
「何かあったら声をかけてください」
「おっけーぃ」
「おっけーい?」
「んふふ、わかったよって意味」
「そういうことですか、では任せましたよ」





